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■ 住宅設計入門



    メールマガジンの掲載記事からの抜粋です。

     §1  扉の開き勝手 (第001号:H.19.04.02掲載)
     §2  キッチンの高さ (第002号:H.19.04.09掲載)
     §3  エアコンの設置場所 (第003号:H.19.04.16掲載)
     §4  奥行きのある空間 (第004号:H.19.04.23掲載)
     §5  外部との関係を考える (第005号:H.19.04.30掲載)
     §6  一寸変わった減額案 (第006号:H.19.05.07掲載)
     §7  パブリックとプライベート (第007号:H.19.05.14掲載)
     §8  庇について (第008号:H.19.05.21掲載)
     §9  小さな土地に建てる (第009号:H.19.05.28掲載)
     §10 キッチンとLDの関係 (第010号:H.19.06.04掲載)
     §11 収納面積について (第011号:H.19.06.11掲載)
     §12 アプローチを考える (第012号:H.19.06.18掲載)
     §13 風通しを考える (第013号:H.19.06.25掲載)
     §14 窓の位置を意識する (第014号:H.19.07.02掲載)
     §15 傾斜地の生かし方 (第015号:H.19.07.10掲載)
     §16 セキュリティの手法 (第016号:H.19.07.24掲載)
     §17 廊下を意識する (第017号:H.19.08.01掲載)
     §18 住宅の中の危険回避 (第018号:H.19.08.08掲載)
     §19 インテリアデザインの力 (第019号:H.19.08.16掲載)
     §20 天井の高さについて (第020号:H.19.08.23掲載)
     §21 意識の方向について (第021号:H.19.08.30掲載)
     §22 階段の基本 (第022号:H.19.09.06掲載)
     §23 LD中心の間取り (第023号:H.19.09.13掲載)
     §24 回遊性のある住宅 (第024号:H.19.09.27掲載)
     §25 各室の大きさ 1 (第025号:H.19.10.11掲載)
     §26 各室の大きさ 2 (第026号:H.19.10.25掲載)
     §27 空間を仕切る (第027号:H.19.11.08掲載)
     §28 段差を考える (第028号:H.19.11.23掲載)
     §29 壁を意識する (第029号:H.19.12.10掲載)
     §30 住宅の配置 (第030号:H.19.12.27掲載)
     §31 住宅の周辺環境 (第031号:H.20.01.15掲載)
     §32 時間を意識する (第032号:H.20.01.31掲載)
     §33 住宅の植栽 (第033号:H.20.02.29掲載)
     §34 寸法の追加 (第034号:H.20.03.31掲載)
     §35 照明について (第035号:H.20.04.30掲載)
     §36 リビングアクセス (第036号:H.20.05.31掲載)

     §37 色の決め方 (第037号:H.20.06.29掲載)
     §38 構造耐力について (第038号:H.20.08.03掲載)
     §39 必然的要素 (第039号:H.20.09.30掲載)
     §40 間取係数について (第040号:H.20.11.30掲載)
     §41 改装のすすめ (第041号:H.21.01.29掲載)
     §42 最低限の寸法 (第042号:H.21.02.28掲載)
     §43 プランニングの順番 (第043号:H.21.03.31掲載)
     §44 坪庭をつくる (第044号:H.21.04.30掲載)
     §45 複数の庭を考える (第045号:H.21.05.31掲載)

     §46 居室の採光 (第046号:H.21.07.08掲載)
     §47 敷地と道路の関係 (第047号:H.21.09.01掲載)
     §48 住宅の外観  (第048号:H.21.11.06掲載)
     §49 窓の選択  (第049号:H.21.12.30掲載)
     §50 天井の意匠 (第050号:H.22.03.23掲載)
     §51 天空率の利用 (第051号:H.22.08.02掲載)
     §52 塀について  (第052号:H.22.09.13掲載)
     §53 スケール感  (第053号:H.23.01.26掲載)
     §54 地震力   (第054号:H.23.04.26掲載)
     §55 構造の選択  (第055号:H.23.07.12掲載)







  §1 扉の開き勝手

廊下から居室(洋室、寝室等)に入る場合、通常内開き(居室側)に開くよう
にします。これは廊下に向かって扉が急に開くことを避けるためで、人がいな
い部屋(倉庫等)は外開きにして室内を広く使えるようにします。例外は便所
でお年寄りが倒れたりする場合を想定して、扉が開けられるように外開きにす
るのが一般的です。(内開きだと部屋内で扉にもたれかかられると扉が開か無
くなります)室面積が狭いことも理由に挙げられるでしょう。

吊元は扉が付いている壁と直角方向に立つ壁の直近に設けるのが理想です。扉
を開けたとき壁に平行に並び、戸当りもつけやすく部屋が広く使えます。注意
をようするのはスイッチを隠さないようにすることです。スイッチを扉に平行
な壁の引き手側(吊元に対してレバーハンドル側)の脇につけるか、上手く行
かない事情がある場合はスイッチを優先して吊元を逆にするべきです。(スイ
ッチを廊下側に出すこともあります)また部屋の真ん中に入口を設ける場合、
どちらを吊元にするか悩むことがありますが、この場合私は右利きの人が多い
ことを想定して、引き手が向かって左側(居室内から見て向かって左側)なる
ようにします。そうすると右手でレバーハンドルを引いたときに体が自然に開
く側に動きます。左利きの人が利用することが決まっていれば逆のほうがよい
でしょう。

玄関扉は少し考え方が違ってきます。まず防犯的には戸当りがデットボルト、
ラッチボルト隠すので内開き(室内側に開く)が有利です。しかし雨仕舞い的
には扉を伝わる雨水が室内に入るので内開きが不利になります。最近の住宅は
玄関が狭いこともあり、一般的には外開きが多いと思います。吊元の位置は引
き手が左側になるようにすることが多いですが、新聞受けやインターホンの位
置なども関わり一様に決められません。特にマンションの対称プランは吊元も
線対称にして逆にすることが多いです。


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  §2 キッチンの高さ

キッチン(カウンタートップ)の高さは一般的には850(ミリ)です。最近分
譲マンション販売ではオプションで高さセレクトとして800と900をつけて3種
類の中から選んでもらうことがよく行われています。この5センチの違いは使
ってみると結構違いを感じます。それならばしっくりいくところで決めたいと
ころですが、この先20年間ぐらい使用するとして、お年寄りや子供も含め複数
の方が関わることになります。仮に使用する人を一人に限定したとしても、必
ずしも身長に併せて高さを変えるのは正しい選択ではないと思います。なぜな
ら野菜を切るとき、フライパンを使うとき、揚げ物をするときそれぞれ理想の
キッチンカウンターの高さは違うはずです。だから選択するときは一つの作業
姿勢が使いやすい高さだからといって簡単に決めない方が良いと思います。い
くつかの作業姿勢を検討した後よく考えて判断しましょう。

キッチンカウンターの高さを取り上げて説明させていただきましたが、オリジ
ナルの寸法を変える場合、一つの事例、一つの動作を気にして判断してしまう
ことが多いようです。家具や衛生機器にはいろいろな機能があるので、いろい
ろなケースを考えて決定したほうが良いと思います。人にはそれなりの調整能
力がありますから、迷ったらオリジナルの寸法を変えないほうが無難です。


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  §3 エアコンの設置場所

エアコンの室内機の取付け場所は、通常効率を考えて部屋の長辺方向に向けて
断熱条件が悪い窓側に付ける事が基本です。ただ今回はそれ以前の問題を取り
上げさせていただきます。

エアコンの取り付けは住宅計画に大きな影響を及ぼします。意図的に設けない
場合もありますが、エアコンが付けられない居室があることは住宅設計では致
命的で、その為に窓や収納を小さくすることも珍しくありません。最近の住宅
は窓の高さを高く取る傾向にあり、窓の上部にエアコンが設置できないケース
が良くあります。(機種によりますが上部35から40センチぐらい必要)また空
調ダクトによる下がり天井や梁があって設置できないことも多いです。エアコ
ンが高機能になり、コンパクトなタイプが殆どなくなってきていることも影響
しています。窓や収納、家具の配置と一緒にエアコンの位置もしっかり検討し
ましょう。

室外機設置場所の確保も重要なポイントです。1階であればかなり自由に置け
るのですが、2階以上はなかなか上手く行きません。バルコニーや屋根に置け
る部屋は問題ありませんが、それが部屋に面していないと、室外機置場という
小さいバルコニーのようなものを付けることになります。

街を歩いていると、空調機の配管が2階から1階に壁を這っているのを見かけ
たことがあると思いますが、室外機の位置を計画段階でしっかり決めておかな
いと、外観がとても見苦しくなったり、後々大きな変更をしなければならなく
なってしまいます。室外機を置くスペースも「デザインの一要素と考え工夫し
ながら設置を楽しむ」といった捕らえ方をされるといいアイディアが生まれる
と思います。


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  §4 奥行きのある空間

生活を育んで行く空間として、住宅に奥行きを感じさせることは多くの生活事
象を受けとめて行く中で大切なことだと思います。何気ない出来事であっても
奥行きがある空間から生まれた出来事は人の受けとめ方、感じ方が違うはずで
す。

奥行きのある空間づくりとは具体的にどういうものか、一言では申し申し上げ
にくいですが、変化、発見、繋がり、がある空間といえるのではないでしょう
か。具体的な例を挙げれば「自分の家から自分の家が見える空間」「人の気配
を感じることが出来る空間」 「光のコントラストにより時間を感じられる空
間」などが思いつきます。

では上に上げた空間を作るにはどうしたら良いのでしょう。人の感性に拠る部
分が大きいので難しいところもありますが、そのヒントを挙げさせていただき
ます。

まず敷地条件が許せば、2階建てでは無く平屋建てにして横に広い空間を展開
します。そして天井を高く取り、庭を囲むようなプランを考えていくことが一
つ挙げられます。しかし平屋建ての住宅をゆったりと作ることが出来ないこと
が多いと思いますので、2階建ての場合は有効な場所に吹抜けを設けることを
お勧めします。よく玄関ホールに吹抜けを設ける方がいらっしゃいますが、リ
ビングと2階の子供部屋を繋ぐような吹き抜けの方が有効だと思います。また
必要最小限の建具しか付けないことも、空間の繋がりが出来て「人の気配」
「光、風の移ろい」を感じることに有効です。子供部屋や居間には建具はいら
ないと割り切ってしまうこともいい結果をもたらすかも知れません。引戸にし
て必要な時期が来るまで開放しておいても良いでしょう。

「形の無いものを掴む」ような感覚が意識出来れば、いろいろな工夫が出来る
と思います。


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  §5 外部との関係を考える

住宅のプランを創る上で、外部との関係を考えることは大切なことです。当然
のことのように感じられるかもしれませんが、どの程度まで「外」の要素を室
内の持ち込むかは、そこに住む方の考え次第でかなり変わってきます。

外部との接点で一番最初に思いつくのは玄関です。玄関は住宅の中で少なくな
った土間が今でも機能しています。この土間をどこまで広げるかでその家の顔
は大分変わってきます。玄関扉を出た先に、少し広めのポーチを作り屋根をか
け、玄関に貼った床材をポーチまで伸ばしベンチや花台を置く。また玄関脇に
シューズインクローゼット兼倉庫を作って本やガーデニングの道具を置いても
面白いかもしれません。内部は内部だけで断絶させないことが面白い生活事象
を生み出します。防犯の為に硬く閉ざされた玄関扉のイメージが変わってくる
のではないでしょうか。

よく住宅雑誌等で目にすることがあると思いますが、外部テラスにすのこ状の
床を設けてリビングルームと段差をなくし、サッシを壁の中に引き込めるよう
にすると、テラスの床とリビングルームの床が一体化します。気候のいい時期
、自然を感じながら開放的な生活を送ることが出来ます。

そのほか、キッチンに勝手口を設けて外部と関係を作ったり、浴室から庭に向
けて大きな窓を設けたり、考え始めればいろいろなアイディアが思い浮かびま
す。外部空間との関係は室内のイメージが相当変わるので、外とのつながりを
考えるのは楽しいことだと思います。これから家を建てる人に与えられた特別
な権利といってもいいのではないでしょうか。間取りを考えていると必要な面
積や、家具の配置に追われて室内だけで計画を完結させてしまいがちです。外
部空間と内部空間を一緒に考えることは大切なことだと思います。


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  §6 一寸変わった減額案

住宅の新築を計画していて、工事費の減額が必要になった場合、仕上げを変更
することや設備機器の仕様を落とすことを考えると思われますが、ここでは少
しユニークな減額案を紹介したいと思います。

最初の案は、「間仕切り壁を出来るだけ少なくしてしまう」という減額案です
。終戦直後の日本の住宅事情はウサギ小屋と表現され、矮小住宅と卑下される
傾向があり、食寝分離が叫ばれていました。その影響から部屋を細かく分割す
る傾向が定着してしまったと思います。部屋の機能を限定せず、幾つかの部屋
を繋げてしまい多機能に利用すれば空間が広く豊かになります。家族が増えた
ときに困ると思われるかも知れませんが、将来お金が出来たときに間仕切りを
作り子供部屋に改修しても良いのではないでしょうか。

第2案は「木製建具をやめてしまう」という減額案です。最初の案とも関係が
あると思いますが、子供部屋の扉は子供が小さいうちは必要ないと思います。
むしろない方が家族の繋がりが深くなると思います。洗面所の扉は洗濯作業を
行う上ではない方が便利です。殆ど家族しか使わないのですから、便所と脱衣
室にカーテンを付ければ問題がないと割り切ってもいいかも知れません。扉が
ないことによるメリットもあり、いつでも後から付けられると思えば新築時に
なくても良いのではないでしょうか。

最後は批判を受けるかも知れませんが、「玄関をやめてしまう」という減額案
です。玄関は家の顔という印象があるので、お金をかけてしまう傾向がありま
す。だから思い切ってやめてしまえばかなりの減額になります。出入りは居間
に縁側を付けて庭から出入りするようにします。田舎の農家の家は玄関はあり
ますが、日常的には縁側から出入りしています。これを都市型住宅に導入する
ことは不可能ではないと思います。

勝手な案を提示させていただきましたが、自分がやりたいことが明確になって
いる方は理想を曲げずに、リスクとメリットをよく検討して、少し非常識と思
われるような減額案を導入しても良いのではないでしょうか。そうすることに
より空間に新たな魅力が生まれることも考えられます。常識に流され、余り考
えずに理想の空間をあきらめてしまうことがあれば残念です。いい意味で少し
悪あがきをしてみても良いと思います。


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  §7 パブリックとプライベート

住宅の間取りを考えていく上で、パブリックスペースとプライベートスペース
の分離を必ず意識します。パブリックスペースは居間、食堂、水廻り等家族が
自由に出入りできるスペース及び来客スペースです。プライベートスペースは
寝室、子供部屋等の家族個々が使用するスペースを指します。

部屋の配置だけではなく、動線(その部屋に行くまでの経路)をなるべく重複
しないようにしなければいけません。来客者が子供部屋の前を通って、客間
(居間)に行くような動線は避けた方が良いと思います。

一般的なパターンは、1階にパブリックスペースを持って行き2階にプライベー
トスペースを配置するやり方です。最初にこのやり方を試みて、上手く行かな
かったり、工夫を加えたかったりした場合に、他のパターンを考えるのが定石
といえるでしょう。

実はこの一般的パターンを崩すことは、楽しい空間創りに繋がることが多いの
です。例えば都市型住宅で庭が殆どない場合、2階にパブリックスペースを持
っていったほうが、開放性のあるリビングダイニングスペース創ることが出来
ます。また1階の面積に余裕が出来るので、駐車スペースを配置しやすくなる
ことも利点です。注意しなければならないのは、2階にパブリックスペースを
持ってゆく場合玄関近くに階段を設け、来客者をスムーズに2階に導くことが
大切です。また防犯上1階に誰もいなくなる時間帯が長くなるので、セキュリ
ティシステム導入等の検討が必要かも知れません。

敷地が長方形をしている場合は、1階居間食堂の奥へ夫婦の寝室をに持って行
き、子供部屋だけ2階に配置します。こうすることによって、夫婦の寝室と子
供部屋を分離でき、2階の余ったスペースは1階の居間上部の吹き抜けにして、
気持ちの良いリビングダイニングスペースを創ることが出来ます。寝室と水廻
りが近くなることも利点に挙げられます。

一定のルールを守りながら、敷地条件等にあわせて創意工夫することはとても
楽しいことです。上手くまとまった時の充実感、期待感は家を創る上で大切な
ものだと思います。


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  §8 庇について

庇の役割として、通常思い浮かぶことは雨を凌ぐことと直射日光を遮ることで
す。この役割を果たしつつ、庇は人の生活にいろいろな影響を及ぼします。

マンションなどの鉄筋コンクリートの住戸には、余り大きな庇は付いていませ
んが、窓の上部に霧除けという、出が20センチ位の庇が付いています。霧除け
は直射日光を遮る機能は殆どありませんが、中高層のマンションは壁を伝わる
雨水が大量なので、これを窓に掛からないようにしてくれます。建物は開口廻
りの浸水によって痛むことが多く、それを防ぐ意味で重要な役割を果たしてい
ます。また風向きによっては壁を伝わる雨さえ凌げば、雨の日でも窓を開ける
ことは可能です。大きな庇を付けられない場合でも、一寸した出を設ければ建
物にいい影響を与えます。

日光を遮る庇を作るときに考えなければならないのは、夏の太陽は高く上り、
冬の太陽は低いということです。関東地方の南中高度(太陽が一番高く上った
ときの地面と太陽の角度)は夏至で約78度、冬至で約30度です。夏至の日差し
が庇に当るようにし、冬至の日差しが部屋の奥まで届く長さに庇を調整すれば
、室内の快適さは増します。図面上で簡単にチェックできますので、機会があ
ったら試してみてください。

大きな庇は特徴ある空間を創り出します。開口の高さに拠りますが、2メート
ル位の庇を付けると、掃き出しの窓を開け放しにしても雨は室内に入ってきま
せん。庭に白玉石を敷き詰め、雨が滴り落ちるの眺めることを楽しめます。こ
のとき均一に雨水が滴るようにするため、軒先の施工に神経を使いますが、自
然を生活に引き寄せるにはいい方法だと思います。

その他、料亭などの入口の庇では、空間に奥行きを創って客を引き込む効果を
生んだり、オーニング(巻き上げテント庇)はオープンカフェや露店に利用さ
れます。

庇をただ付けるだけではなく、しっかり役割を与えて積極的に用いると良い効
果が期待できると思います。


日本オーニング協会 http://www.awning-j.com/


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  §9 小さな土地に建てる

住宅を建てるときには当然土地が必要ですが、十分な敷地を手に入れるのはな
かなか難しいことです。小さな土地に住宅を建てる場合に、どの様な工夫が必
要か紹介させていただきたいと思います。

小さな土地といってもいろいろなレベルがありますが、25平米程度の土地に家
族4人が住むことを想定して見ます。土地が極端に狭い場合、1フロアー1室が
基本になり、間仕切りを設けず空間を縦に繋げたほうが気持ちの良い住宅にな
ります。1階に居間、2階にダイニングキッチン、3階に主寝室、4階に子供部屋
、できればその上にロフトを作り収納を確保します。各階の階段の脇に玄関、
トイレ、浴室、収納を重ねるように配置。各部屋の広さは6畳程度の広さにな
ります。また建物の高さを制限される場合は、地下室を設けます。

上記は一例ですが、土地が狭い場合どうしても縦に積み上げることになります
。それをいかに魅力的にするかがポイントになると思います。階段に使う面積
が大きいので階段を貧弱にしてしまう傾向にありますが、小さな住宅の階段は
ホールと廊下を兼ねているので、この縦に連なる空間を上手く生かしたほうが
効果的です。

各部屋は小さくなってしまいますが、小さな空間を大きく感じるようにするに
は、なるべく均質な空間にすることです。部屋の入口側は階段になりますので
、階段に窓を取り、その対面側に大きな窓をつくれば空間が広く繋がります。

狭い土地を有効に使う工夫はいろいろありますが、それによってできる「一寸
変った空間に住むこと」が楽しめれば理想的です。そして少々不便でも「この
土地に住む」という大きな期待と覚悟が必要です


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  §10 キッチンとLDの関係

住宅の中で日常生活に一番関わり深い場所は、寛ぎの場であるリビングダイニ
ングルーム(LD)だと思います。そしてLDとキッチンの関係をどうするか
によって、LDの環境は相当変ってきます。

昔の台所は家の北側の日が当たらない場所に、孤立して設けられていましたが
、モダンリビングが普及している現在、キッチンは住宅の重要な要素になりつ
つあります。マンションの設計に於いても、住戸プランの形式は広さとキッチ
ンタイプで分類されることが一般的です。

キッチンとダイニングの関係を大きく分けると、独立型、対面型、オープンキ
ッチンの3種類に分けられます。さらにLDとの間にどれだけ壁を設けるかに
よってそれぞれ開放感が違ってきます。

独立型であれば、キッチン内の乱雑な部分がLDに影響を及ぼさない利点はあ
りますが、家事をする人が孤立する欠点があります。またサービスの点でワゴ
ンなどを利用して、食卓に食事を運ぶ不便さがあります。対面式であれば、子
供の様子を見ながら家事をすることができ、サービスの点でも有利です。さら
にオープンキッチンにしてしまえば、家族が自由に調理に参加したり、より深
いコミュニケーションが築けます。ただし開放度が高くなればそれだけ、キッ
チンの乱雑さは露出されます。

上記のタイプは基本ですが、配置的には独立型でも開口を大きく取ったり、ガ
ラス窓をつけて開放感を創りだすことは出来ます。またオープンキッチンであ
っても収納を上手く配置すれば、キッチンの乱雑さはなくなります。理想を決
めたらじっくりと創りこめば、愛着のあるキッチンが出来ると思います。

キッチンは長時間作業をする場所なので、明るく、居心地がよく、美しくなけ
ればいけません。そしてキッチンとLDの関係によって、生活形態は大きく変
ってきます。どの様なキッチンが理想か、はっきり認識して家創りを進めるこ
とはとても大切です。


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  §11 収納面積について

建築雑誌の写真や、マンションのモデルルームはなぜ美しいのでしょうか。そ
れはものが無いからです。生活における象徴的なものだけを使い空間に装飾を
与えているだけで、日常生活から出てくる雑多なものをなくしているから美し
くなると思います。

家を建て暮らし続けていく中でも、ものが散らかっている状態を無くし、整然
と美しい空間を維持したいと願うのは当然のことだと思います。ものを隠すた
めの収納を少しでも余計に取りたいと殆どの施主は希望します。マンションの
場合は通常、住戸の面積の約10パーセントの収納を取るようにディベロッパー
から求められます。戸建住宅でもまずは10パーセント以上の収納を確保するよ
うに計画することは間違っていません。ただ面積が限られている都市型の住宅
で、15パーセント、20パーセントと収納の割合を高めていくことはお勧めでき
ません。

長年暮らし続けても、空間を豊かに使い続けている方のお宅を拝見すると、部
屋に調和した家具が上手に置かれていることに気付きます。収納の質を高める
ためには、大きな物や、しばらく使わないものを作り付けの収納に仕舞い、生
活を続けていく中でふえていくものは家具を利用して、それを上手く部屋の中
にレイアウトしていった方が良いと思います。何もかも住宅を建てるときに作
った収納に押し込むことは、建築時の収納面積を余計に使ってしまい良い結果
をもたらさないと思います。

生活スタイルは長い年月の間に変ってくるものですから、空間になじむ家具を
増やしていく方が豊かな空間を生み出します。また少し贅沢をして家具を選べ
ば、愛着が持てるし、それがオブジェになり生活空間に良い表情をもたらしま
す。例外として本の収集、レコードの収集、他大量の収集を趣味としている方
は、住宅を建てるときに収集物自体が空間を作り出す収納力のある家具を作り
付けておくことは必要だと思います。

いつまでも整理された気持ちの良い空間を保つには、建築時に収納面積を増や
すのではなく、むしろ将来家具を置くことの出来るスペースを確保する方が有
効だと思います。


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  §12 アプローチを考える

住宅の間取りを考えるとき、最初に玄関の位置を決めることが多いのではない
でしょうか。特に制約が無ければ道路に面した場所に玄関を配置することを考
えると思いますが、少し奥まった位置に玄関をもって行き、道路から玄関まで
のアプローチを楽しむことも生活に彩りを加えます。また玄関の配置に自由度
が生まれるため、建物全体の構成も豊かになる可能性が出てきます。

玄関までのアプローチは、独特な空気が漂います。客人にとっては緊張感を伴
う空間になるかもしれないし、そこに住む人にとっては安心感を伴う場所かも
しれません。店舗やレストランなどでは開口(ガラス面)を広く道路側に取り
、入口は少し奥まったところに配置することがあります。気軽に入り難い印象
を持つかもしれませんが、アプローチを通る多少の緊張感が商品や料理の価値
を高めていると思います。

石畳を敷き、植栽等で演出しそこを通る人が何かを感じる空間を創ることが大
切です。幅は傘を持って歩いても問題がない程度の幅が必要です。また道路か
ら見て、自然に玄関へのアプローチへ導き入れるように門や塀を配置しましょ
う。言葉で表現しただけではお解り難いと思いますので、昔からある住宅街を
歩いて見ることをお勧めします。必ず心を捉えるアプローチを用意している住
宅があるはずです。

限られた敷地の中で創るアプローチは、庭の要素も兼ねます。プライベートな
庭に対してパブリックな庭と言えるでしょう。この要素を住宅に持ち込むかど
うかで日常の生活にも変化を与えます。それに何かを期待できる方は、是非玄
関へのアプローチを創っていただきたいと思います。


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  §13 風通しを考える

季節は梅雨ですが、住宅を設計する上で日本の気候風土を考え風通しに配慮す
ることは大切です。間取りを考えているとどうしても、南側に居室(LD、寝室
、子供部屋等)を並べてしまい、北側に水廻りや収納が集まる傾向があると思
います。しかし、これでは夏に吹く南から北に抜ける風を通すことが出来ませ
ん。

1階にLD、キッチン、玄関、水廻り等、2階に主寝室、子供部屋といった一般
的な住宅を例にさせていただくと、1階のポイントはLDの配置にあると思いま
す。LDは南側に横長に配置してしまいがちですが、風通しを考えると南北に縦
長に配置したほうが効果的です。また南北に大きな窓を取れるので、より均一
な採光を確保できます。北側に小さな庭を取り植栽を植えれば、南北に繋がる
広がりのある空間を創ることが出来ます。明るい部屋は魅力的だと思いますが
、全面南側の必要があるかどうかよく考えてみることが大切です。せっかく南
側に居間を配置しても、道に面したマンションの1階などでは、プライバシー
確保のため一日中カーテンが閉めっ放しの部屋があります。このような状況に
なるのなら、南側に居間を持ってくることにこだわらないほうが良いと思うこ
ともあります。

2階はホールと吹抜けを設けて、通風を確保します。階段にも窓を設けて開口
面積をなるべく多く確保しましょう。吹抜けを設ければ、1階の風を上手く抜
くことも出来とても効果的です。どの部屋からも入口を開ければ通風が出来る
ようになります。2階の窓は防犯的にも常開にしやすく、風を抜く場所として
理想的です。

居室は南、その他は北と決めてしまって部屋を配置してしまうことがあると思
いますが、色々な要素を取り入れて多くのパターンを創ってみることをお勧め
します。一つ創ってしまうと崩すのは結構大変ですが、沢山創って重ね合わせ
て理想に近づける過程は大切です。


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  §14 窓の位置を意識する

通常、住宅を設計するときに先ず平面図(間取り)を考えると思います。平面
図のイメージが固まると、日常的な機能を満たす開口部を設け、外観を創り上
げていくことになります。設計の仕事をしていると平面図の概要が決まった時
点で大体の外観は頭の中に出来ていて、途中から平面と立面を一緒に考えなが
ら設計を進めるようになります。勿論、外観に関して最初から明確な意図があ
る場合もあります。

設計を仕事にしていない方が自分の家を建てるとき、間取りが完成した時点で
ほぼ設計が完了したと思われているケースが多いのではないでしょうか。ハウ
スメーカーや工務店に直接依頼されている場合、多くの注文を付けられない状
況が考えられますが、窓の位置についてはこだわりを持っていただきたいと思
います。間取りを考えるのと同じように、窓の位置を考えることはとても大切
なことです。

マンションの設計では、一つの住戸だけ違う位置に窓を設けることは出来ない
ので、大体当たり前の位置に決まってしまいます。しかし戸建住宅の場合は基
本的に自由なので、一つ一つの窓に意味を持たせることが出来ます。窓は内と
外を繋げるもので、環境的にも外観的にも大変重要な意味を持っています。窓
の取り方で室内環境も外観も大きく変わってくるのです。

ピクチャーウインドウという言葉がありますが、気に入った景色を窓によって
切り取り室内から眺める意味を持っています。気に入った景色があれば、それ
が家の中から眺められる窓を創っていただきたいと思います。2階から自分の
家の庭を眺めるために、地窓を設けるのも楽しいかもしれません。外観的にも
低い位置に窓があると変化が生まれます。その他、夏の間に気持ちがいい風が
入ってくる窓や、強い西日が入ってくる小窓も時間の経過を感じさせてくれま
す。

家にある窓は、そこに暮らす家族の共通認識を生み出します。その家で育った
子供たちが、大人になっても思い出すような窓を是非創っていただきたいと思
います。


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  §15 傾斜地の生かし方

住宅の敷地は平に整地されているイメージをもたれる方が多いと思いますが、
実際は勾配がかなりあったり、段差があったり、崖を背負っていたりする場合
がかなりあります。このような敷地をお持ちの方は、条件が悪いと悲しむより
も条件を生かし自然になじむ住宅を是非創っていただきたいと思います。

傾斜地の利点は第一に自然との接点が多いということです。斜面は日当たりが
よく、既存樹木が多く残っているケースがあり、住宅の側面を緑で囲むことが
可能です。外観的にも正面から既存樹木や、後から植えた植栽が重なって見え
るので奥行きのある景観が形成されます。それを生かす住宅は斜面に沿った床
レベルを設定したいものです。そのために天井の高い部屋を用意して、他の部
屋の床を少しずつ上げていっても天井高に問題がないようにします。レベル差
による変化ある屋内空間を楽しむことが出来ます。お年寄りの方には不評かも
しれませんが、中途半端な段差よりもしっかり段差のある階段があった方が安
全です。敷地手前側に天井の高い居間を用意すれば、採光条件も風通しも良く
なると思います。外構も床レベルとの関係を重視し、違うレベルから外に出ら
れるようにすると面白い外部空間が出来ると思います。

次の利点として、傾斜地はなだらかに続いていることが多いので周囲の状況に
邪魔されない眺望が得られることです。床レベルを敷地に合わせている関係か
ら、2階の窓の高さは通常の住宅より高く、条件はさらに良くなっています。
2階をセットバックして広いバルコニーを用意したいところです。

最後に、傾斜地はプライバシーを維持し易いということです。崖を背負ってい
る場合、ドライエリア(採光用空掘)を作って半地下空間を創ることが出来ま
す。マンションでは法定容積率の関係からよく地下に住戸をつくりますが、外
部環境から遮断された空間は人気があります。注意しなければいけないことは
、地下の土に接する部分は水が回りますので、二重壁にするなど防水対策が必
要です。正面は開放的で、背面は閉鎖的な空間を用意できるのは傾斜地の特徴
といえます。

傾斜地を利用する場合、安全性を確保したり、建物の構造も複雑になるので工
事費は平坦な敷地に比べると高くなると思います。ただ斜面地の利点を生かせ
ば、その土地でなければ出来ない住宅を創ることが出来るので、積極的に挑戦
してほしいと思います。


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  §16 セキュリティの手法

防犯意識の高まりは顕著になり、それぞれのお宅で色々な工夫を凝らして対処
していると思われます。ダブルロックにしたり、合わせ硝子を使用したり、防
犯カメラを設置したりしているご家庭が増えてきました。商品として防犯グッ
ズは多く開発さていて、これらを利用してセキュリティを高めることは良いこ
とだと思いますが、それによりデザイン性が失われたり、出入りに不自由とな
ることもあり、生活に支障を来たしている要素もあると思います。防犯意識の
程度にも拠りますが、ここではセキュリティを高めると同時に建築のデザイン
を高める方法を幾つか取り上げたいと思います。

一つ目は、玄関ドアの鍵穴を無くしてしまう方法です。電気錠等の利用が必要
になりますが、侵入者は対応に苦慮し侵入の対象からはずすことになります。
鍵穴が無いドアはすっきりしていてデザイン性が高まります。さらに進んでド
ア枠を無くし、玄関ドア自体を壁と一体化させる方法もありますが、来客の対
応に困ると思います。インターホンを上手く使えば可能性はあるかもしれませ
ん。

二つ目は、表通りから目立つ位置に玄関を配置する方法です。2階に玄関をつく
り、玄関扉周囲を開放的にすれば多くの人の目に触れ侵入しにくくなります。
プラン的に居間や客間も2階に配置することになるので、開放的なパブリックス
ペースが期待できます。2階に玄関を持ってくると1階に居る頻度が減りますの
で、1階の窓にはしっかりした面格子をつける必要があります。

最後に、外部と内部の中間領域を設けセキュリティを二重にする方法です。通
りから玄関ポーチに入る部分にしっかりした施錠をして、玄関扉は框戸を用い
硝子張りにして見晴らしを良くします。内部から見透かされますので、侵入者
にとって手間がかかる上監視されている意識が働き侵入をためらいます。以前
紹介させていただきましたが、外部と内部を繋ぐ中間領域は豊かな生活事象を
創り出します。この場合、開放的な玄関扉を使用できますのでより良い効果が
期待できるのではないでしょうか。

自分の生活を守る為に、かたくなな防御も必要になることもあります。しかし
仕方がないものとせずに、工夫をしてセキュリティを踏まえつつ魅力ある住宅
を創っていただきたいと思います。


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  §17 廊下を意識する

住宅の設計をするとき、廊下をどのように捉えるかによって間取が相当変わっ
てきます。廊下は少なければ少ないほうが良いのか、また部屋と部屋を繋げる
中間領域としての機能を重視するか、考え方はいろいろあると思います。

マンションの場合はなるべく廊下の面積を小さくすることを要求されるのが一
般的です。マンションの居室は通常部屋として独立していますから、廊下から
直接部屋に入れるようにプランをつくります。ですからどうしても廊下の面積
は多くなりがちですが、住戸の形状と玄関の位置が上手くいくと、3LDKで数平
米の廊下で済んでしまうことがあります。その分居室の面積が大きくなってい
るので、ディベロッパーとしては販売し易くなるわけです。逆に奥行きの深い
形状の住戸だと、廊下の片側にしか部屋が設けられず、10平米近く面積を使っ
てしまうこともあります。その場合は何度もプランを練りなおすことを要求さ
れます。マンションの場合は廊下は部屋の面積を減らす嫌われものといえるか
も知れません。

しかし戸建住宅の場合はそうとは限りません。敷地の形状が原因になっている
こともありますが、廊下を広めに取っているケースがよく見られます。和室の
続き間があるとその周囲をぐるりと廊下で囲い縁側を兼ねる間取は昔からよく
ありました。現在では2階建が一般的なので、階段周囲にホールを設け廊下の
機能を果たしていることもあります。ただ戸建住宅であっても建坪が大きくな
れば工事費用が余計にかかるわけで、廊下の存在意味を十分検討する必要があ
ります。

廊下は仕方なく出来るスペースという概念をすて、部屋と部屋を繋ぐ空間がど
うしたら心地よいものになるか考える必要があります。開放的で風が通ること
が必要条件と言えるのではないでしょうか。またパブリックな空間として、絵
や花を飾る場所として最適です。収集した本やレコードを廊下の壁一面に収納
することも出来ます。廊下を否定的な存在とせず、積極的にその効果を意識し
て居室(部屋)とのバランスを考えれば、有意義な空間を創ることが出来ると
思います。


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  §18 住宅の中の危険回避

マンションを設計すると、施主から多くの危険回避事項が示され、それに従っ
て設計を進めなければなりません。今回はその中から幾つかご紹介したいと思
います。マンションの場合は入居者が特定していない状況で設計をしますので
、全ての方に当てはまるものではありませんが参考にしてください。

1.レバーハンドル、キッチンカウンター等の角を丸くする。
小さなお子さんが、ぶつかったとき大怪我にならないように必ず角を丸くしま
す。レバーハンドルも角が丸くなっているものを選びます。階段の手すりの先
端も同様です。またバルコニーの手摺の小口などで手を切らないようにヤスリ
で角を落としてもらいます。巾木の角なども尖っていることがあるので注意が
必要です。

2.バルコニーの手摺に桟は縦桟にしてその間隔は有効110ミリ以下とする。
バルコニーに横桟を用いると、子供が足を掛けてよじ登り転落する可能性があ
ります。また物干し金物で竿を付けたまま収納した場合、竿の高さが問題にな
ります。あまり高い位置にあると足がかりになり同様に危険です。縦桟の間隔
は子供の頭が通らないように、有効110ミリ以下にするように指示されます。

3.エントランスホールの床は滑らない材質を使用する。
御影石の本磨きなどを使いピカピカに仕上ると、雨で濡れるとツルリと滑りま
す。見栄えが悪くなってもざらざらした仕上げにするように指示されます。折
角石を用いても全体をざらざらにすると見栄えが良くないので、歩く部分を模
様上にざらざらの仕上げを用いたりして工夫をすることが多いです。最近は液
状の滑り止めがあり、本磨きの床に塗れば見栄えは良くなりますがこれを用い
ると数年に一度塗り替えが必要になります。完成後に指摘された場合などで用
いることがあります。

4.アルミサッシには手挟み防止機能をつける。
サッシを勢いよく開けたときに手前の障子と完全に重なる前にサッシが止まり
、手挟みを防止する機能です。特に高層マンションでは耐風圧の関係でサッシ
の重量も重くなっている為力を入れて開け閉めするので必要性が高くなります。

5.敷地境界線上の塀の高さは外部から180センチ以上にする。
日本では塀の高さは180センチ以上と言う認識があるらしく、泥棒に入られた
場合に180センチの塀を設置していれば問題視されず、これが175センチだと問
題になるそうです。現実的にはもう少し高いほうが良いと思います。エントラ
ンス周辺など重要なポイントでは「忍び返し」を用いることもあります。

代表的な項目を挙げさせていただきましが、これらは工務店に一言いえば対応
してしてもらえることだと思います。また竣工検査の際注意する部分でもあり
ます。ただ小さなお子さんがいないご家庭などは、必ずしも必要にならないこ
とだと思います。法規に反しない限りデザインを優先しても良いかもしれませ
ん。


滑り止め溶剤:株式会社サンフライト
http://www.sunflight.jp/index.htm

忍び返し:大栄線業株式会社
http://www.daieisengyo.co.jp/sinobi.htm


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  §19 インテリアデザインの力

住宅を設計するとき、多くの機能とデザインを平行して考え全体をまとめ挙げ
る努力をしますが、苦労して創った空間にそぐわない家具やカーテンなどが使
われているとイメージががらりと変ってしまうことがあります。どんなに設計
者が緻密な計算をしても、見事に空間デザインを転換させてしまう力がインテ
リアデザインにはあります。

インテリアデザインの力を上手く扱わないと、理想の空間を創ることは出来な
いといっても良いのではないでしょうか。住宅を設計するときに家具やカーテ
ン等まで全て新調される方は少ないと思いますので、今使っている家具等をど
の様に利用するか、何を加えるかよく考える必要があります。電化製品や飾り
たい絵画等も大きな影響があります。また建築家に依頼する場合はそのあたり
も相談されてから、設計を進めてもらった方が良いと思います。

ポジティブな考え方をすると、インテリアデザインの力を上手く利用すれば家
を建て直さなくても、色々な空間をデザインできると言えるかも知れません。
例えば和室の柱、鴨居、敷居、長押等空間構成部材を壁と同色に塗り、畳の上
にカーペットを敷いてリビングセットを置けば、普通より少し低い腰窓が特徴
的な洋室風の空間になります。ただ家具を置くだけだと滑稽になってしまいま
すが、少し工夫をすれば面白い空間を創ることが出来ます。その場凌ぎと批判
されることもあると思いますが、インテリアデザインは手軽に変更が可能なの
で状況にあった空間を設えることが可能です。住宅の建て直しを考えている場
合、インテリアデザインの力を上手く利用すれば寿命を延ばすことが出来るか
も知れません。


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  §20 天井の高さについて

マンションを設計するとき殆どの場合、ディベロッパーから天井高さを指定さ
れます。参考までに一般的な数値を紹介させていただくと、LD:2500から2600
(ミリ 以後この記事において共通) 洋室:2500 和室:2500 キッチン:
2200または2400 便所:2200 洗面所:2200 廊下:2200となります。この数
値を確保した上で、一部梁型や排気ダクト用の下がり天井が出てきます。マン
ションの場合、階高が2900程度であるため自然に天井高が決まってきます。廊
下や水廻りの天井が低いのは、排気ダクトや換気扇を納めるためです。またシ
ステムキッチンなどが納めやすい高さでもあります。最上階が勾配屋根になっ
ていたりすると天井高が高く取れますので、なるべく高くとるようにします。
ただし便所や廊下、洗面所の天井高は一般階と同じにすることが多いと思いま
す。

マンションの設計を長くしていると、戸建住宅を設計したとき天井高を決める
ときに戸惑うことがあります。高さ関係の設定が自由なのでどこまで高くする
か考えてしまうからです。天井高は高い方が気持ちよく、2階からの影響も少
なくなるのでなるべく高くしたいところですが、冷暖房の効率が悪くなったり
照明の設置に工夫が必要になったりするので多くの要素を総合的に考えて判断
しなければなりません。

キッチンは許されれば紹介したマンションの基準よりも天井を高くした方が良
いと思います。洗面所、便所は天井を高くする必要は無いと思いますが、サニ
タリールームとして空間を充実させるために、高窓を設け天井を高くしても面
白いかも知れません。

和室に関しては洋風の住宅に1室きちんとした和室を設ける場合は、日常的に
床に座った姿勢の視線を意識して天井や開口を余り高くしないほうが空間的に
落ち着きます。天井高は2300から2400程度にして、障子、襖の高さも1800が妥
当だと思います。開口を大きくする場合は欄間や天袋を設けます。ただし所謂
和風住宅で、家の殆どの部屋が和室の場合は天井が高い方が良い場合もありま
す。特に面積が大きい部屋は天井を高くするべきです。

マンションの場合和室の開口高さも他の木製建具にあわせるので、開口を2000
から2100程度の高さにしていることが多いです。天井の高さも洋室と同じにし
ます。大味な和室になりますが、LDに隣接した和室風の部屋と割り切れば、生
真面目な和室を置くよりも違和感がありません。

廊下に関しては、どの様な機能を持たせるかによって違ってきます。ホールの
ような空間であれば天井を高くした方がよいでしょう。また廊下を抜けて、居
室に入ったとき空間が広く感じるように、敢て廊下の天井を低くして空間を引
き締めることもあります。廊下の天井高を決めるときは、その部分だけで完結
せずに他の空間との連続性を考える必要があります。

天井の高さは、空間に思わぬ変化をもたらします。日常的に意識していればど
の程度の高さが自分の理想に近いか感覚的に解かってくると思います。


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  §21 意識の方向について

同じような平面図であっても、実際に出来た空間がとても違って感じることが
あります。この違いはどこから生じるか考えてみると、大きな要因の一つに空
間に対する意識の方向を巧みに設計に生かしていることが挙げられます。

空間の意識の方向とは、例えば斜面の下り側に向いて立つと自然に意識は下
(地面)の方向に働きます。逆に登り方向を向けば上(空)の方向に働きま
す。この意識の方向を住宅の中に取り入れれば、工夫次第で色々な空間構成が
考えられ豊かな空間を創る一助になります。

階段の上り下りに於いては、上るときに意識は上に向き下るときは下に向きま
す。そのときの視線を上手く利用して、窓の高さを変えたり絵画や写真を飾っ
たりすることで空間に対する印象は大分変ってくるはずです。また何も無い部
屋に窓が一つだけある場合、部屋に入った瞬間意識はその窓に集中します。そ
こにアンティークな家具を置けば、窓よりも家具の方に意識は向かうと思いま
す。窓から素晴らしい景色が見えるのであれば、窓のある面に家具を置かない
ほうが効果的です。特に意識しないのであれば、家具などを置いて部屋を彩っ
たほうが良いこともあると思います。

以前に扉の開き勝手の基本について説明させていただいたことがありましたが
、部屋の一番見せたい部分が扉を開けた瞬間に見えるように開き勝手を決める
ことがあります。これも意識の方向を利用した方法です。また天井を高くし折
上げ天井にしたりして意匠にこっているのであれば、豪奢な照明を吊れること
により意識を天井に向けることが出来ます。

住宅の間取が決まったらいろいろなポジションで意識はどの方向に向かうか考
えそれを上手く利用したり、逆に意識を効果的な方向に向かわせる工夫をした
りすることは、豊かな空間を創る一つの手法です。間取が決まった時点で創造
をストップせず、そこから色々考えることは楽しいことだと思いますので、そ
の材料の一つとして覚えておいていただきたいと思います。


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  §22 階段の基本

階段は2階建の住宅では必ず必要になるものであり、設置する場所により計画
に大きな影響を及ぼします。無くてはならないものだけに、なるべくコンパク
トに納めたいとか、階段下部を収納にしたいという要望も生まれてくると思い
ます。今回は住宅の階段に関する基本的な事柄を紹介したいと思います。

建築基準法上、階段の巾:750ミリ以上、蹴上げ:230ミリ以下、踏み面:150
ミリ以上にしなければなりません。廻り階段は踏み面の狭い方の端から300ミ
リの位置で踏み面150ミリ以上必要になります。また手摺は必ず付けなければ
なりません。法基準ギリギリだととても急な階段になりますから、常識的に
は蹴上げ200ミリ程度以下、踏み面220程度以上を最低ラインで考えるのが良い
と思います。

階高を2800ミリと考えると、2800/200で14段必要になります。踏み面は段数マ
イナス1となりますので13面必要です。直通階段であれば220かける13で2860ミ
リあれば階段を設置できます。回り階段であれば4踏み面直通で上り、5踏み面
で回り、4踏み面直通で登りきるようにすると1820ミリかける1820ミリの中に
階段が納まります。一般的に最もコンパクトに階段を納める方法です。階段の
巾は750ミリ確保しなければなりませんが、手摺をつけた場合は壁から手摺の
出寸法が100ミリ以下であれば手摺がないものとして階段巾を算定します。

階段周囲が吹き抜けになっている場合は問題ないのですが、なるべく2階の床
面積を多く取る為に階段上りは始め上部の床を下部階段部分にかぶせていると
、階段を下りるときに梁に頭をぶつけることがあり危険です。断面図を描いて
検討する必要があります。

階段の下部を収納にする場合、階段の両サイドに高さ350ミリ程度の側桁が必
要になりますので、扉の高さが低くなることに注意しなければなりません。こ
れも図面を描かないと解かりにくいと思いますが、四角い扉の角を斜めに上が
る桁の低い位置にあわせるので結構低くなります。扉上部の形状を斜めにする
と大きく綺麗に納まります。

構造をデザインに取り入れたい場合、力桁(ちからげた)階段にすることがあ
ります。力桁階段とは段板の中心に力桁を入れて階段を支える方法で、基本的
に1本の桁と段板だけで構成されます。法的に手摺が必要になりますが、それ
を入れてもとても開放的な階段です。力桁は巾150ミリ程度の厚物を用い、ボ
ルトで段板を固定します。段板の厚さも必要で、余り巾を大きくすると構造的
に無理が生じます。また力桁階段は直通階段としなければなりません。

開放感のある階段を求めるのであれば、透し(すかし)階段にする方法もあり
ます。側桁と段板の構成で、蹴込板をつけません。正面から見ると階段の向こ
う側が見えるので開放感がある空間を演出できます。鉄骨を使用してよりシャ
ープな階段にすると効果的かも知れません。

階段は機能的にも意匠的にも計画的にも重要な位置を占めます。機能性と意匠
性を兼ね備えており、出来れば目に付く位置に自慢の階段を計画していただき
たいと思います。


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  §23 LD中心の間取り

通常、住宅は玄関から入ると廊下か玄関ホールがありその先に階段があるケー
スが多いと思います。階段周囲は吹き抜けにしていて採光や通風がとれ充実し
た空間となっている住宅をよく見かけます。この玄関廻りの空間をリビングダ
イニング(以降LDと表記)に上手く取り入れることが出来れば、日常的に豊か
な空間に接することが出来、廊下や玄関ホールの面積を居室に使用することが
出来ます。そこでワンルームのようにLDと玄関を直接結び、階段と吹き抜けを
LDの中に取り込むことを考えてみます。

多くの方が問題にするのは、玄関を開けて直ぐにLDが見えるので生活空間を露
出させてしまうことです。解決方法としては、玄関を通常よりも大きくして玄
関とLDの間に引戸を設けることが考えられます。家の奥に招き入れる客以外に
室内を見られることは無くなります。また入った瞬間に気持ちの良い空間を感
じてもらいたいのであれば、玄関の正面に階段を配置する方法もあります。覗
き込めば室内を見られますが、正面に階段と吹き抜けがあれば意識は正面また
は上方に向きます。加えて家具の配置を工夫すれば気にならなくなると思いま
す。

一般的なプランを考えると、1階にLD、キッチン、浴室、洗面脱衣室、トイレ
で2階に各居室(主寝室、子供部屋等)を配置することが考えられます。LDの
周囲に居室を持ってくるとすれば、通常和室か主寝室だと思います。1階をパ
ブリックスペース、2階をプライベートスペースに分けるのが基本ではないで
しょうか。来客時にトイレ利用や入浴や外出がし難いという欠点が生じる事が
考えられますが、先に記したように玄関付近に階段をつくりその周囲に水廻り
を設置すればほぼ解決できると思います。出来ればトイレは2階にもあった方
が良いと思います。

LDを気持ちのいい空間にすれば、自然に家族がそこに集まるようになります。
その上、廊下の機能を兼ねているので日常的にLDが動線となり、コミュニケー
ションや団欒が生まれる可能性が高まります。また広いLDを最初に確保してお
けば将来LDの一部を他の居室に改修することも可能です。LDは住宅のなかで多
くの可能性を秘めている部屋であり、工夫次第で色々な生活空間を創り出すこ
とが出来ます。


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  §24 回遊性のある住宅

住宅を設計するとき回遊性を考えることは豊かで楽しい生活空間を生み出しま
す。ある部屋に行くのに幾つかのルートが考えられれば、より多くの空間事象
に接することが出来ます。簡単な例でマンションの和室を取り上げると、行灯
部屋の和室はLDからのルートと廊下からのルート二つ用意されているプランが
多いと思います。LDからは開放された連続した空間を感じることができ、廊下
から出入りする場合はLD側を閉じて個室的な用途として使うことが出来ます。
また洗面脱衣室もキッチンと廊下から出入りできるようにしているプランをよ
く創ります。来客等に配慮して脱衣室は廊下から出入りするのが基本ですが、
キッチンからのルートをつくれば洗濯等の作業が台所仕事と平行して出来るの
で便利です。部屋の配置によっては近道になることもあり、単に和室や洗面脱
衣室を通り抜けるだけでも、日常と少し違った生活を感じさせてくれると思い
ます。

戸建住宅の場合は色々な回遊性を考えることが出来ます。和風住宅であれば続
き間をぐるりと囲む廊下は典型的な例と言えるでしょう。広間として大きな空
間をつくることも出来るし個室として利用することも可能です。廊下は外部空
間との開放された中間領域となり縁側として利用できます。台所の勝手口も回
遊性をつくり出します。勝手口をつくれば外部に物置をつくり利用することが
出来るし、植栽の世話もできます。またメインアプローチへの通路を考えます
ので外部空間を豊かにします。

中庭に面した外部廊下を通して部屋と部屋を繋ぐことも効果的です。それぞれ
の部屋の気配を感じることが出来ますし、声を掛ければそれぞれの部屋から中
庭を通ってLDに集まってくることが出来ます。また階段を二つ設けて立体的に
回遊性をつくる方法もあります。廊下に面して階段をつくり、その他にダイニ
ングを吹き抜けにして階段を設置しリビングを2階に設けます。リビングから
ダイニングを見下ろす形になりますので気持ちの良い空間が創れます。

プランを考える時、回遊性を意識すれば色々な可能性が見つかるはずです。使
い勝手をよくするだけではなく、色々な方向から家を見ることが出来て生活し
ていて多くの発見があると思います。空間の隅々まで生命感を感じることが出
来れば理想的です。


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  §25 各室の大きさ 1

今回は部屋の大きさを決めるポイントをマンションの規格寸法を例に説明させ
ていただきます。マンションを設計するときに、ディベロッパーから最低寸法
(面積)を指定される場合や各社共通に、指定されなくてもほぼ決まっている
寸法があります。マンションは住戸の面積が限られているので、室の機能を満
たす寸法はミニマムに近く抑えられる傾向があります。逆に大きければよいと
いうものでもなく、例えばトイレや廊下の寸法を最小限にして余った寸法を居
室にする発想はあってもよいと思います。

玄関の奥行きは最低900(ミリ 以降この記事において共通)以上と指定されま
す。仕様が高いマンションだと最低1100以上と指定されることもあります。
900という寸法はかなり狭いですが、収納力のあるシューズボックスを設けれ
ば基本的な機能を満たします。ただ、靴を履くために椅子を置いたり、観葉植
物を置くスペースは余り期待できません。ちなみに下駄箱の奥行きは400が基
本です。

廊下の幅員は有効寸法880とすることが多いです。壁厚が70となることが多い
ので壁芯から壁芯までを950とするとこの数字になります。日常的には困りま
せんが両側に手摺を付けた上、車椅子を利用する場合は少し狭いと思います。
バリアフリーを考慮すると有効寸法950程度必要ではないでしょうか。余談に
なりますが、「マンションに高級感を持たせるコツは廊下を広くすること」と
聞いたことがあります。巾を100大きくするだけで玄関を開けて入った印象が
大分違うのは確かです。

洋室(子供部屋)は6畳以上の広さにすることが求められます。目標値なので
多少狭くなっても認められますが、5畳以下は認めないディベロッパーが多い
と思います。何れにしても、部屋の形状が著しく細長かったり、柱が出ていて
実際に使える面積が小さい場合は再検討が必要になります。実際に家具をレイ
アウトして使用上差し支えないか必ず確認しなければなりません。入口の扉は
巾800内開きが基本なので家具にぶつからないように注意します。クロゼット
の奥行きは600(有効570程度)が基本です。これはハンガーを無理なく吊るせ
る寸法で決まっていますので布団を仕舞う場合は有効800以上必要です。クロ
ゼットの前面は最低600程度のスペースが必要です。

主寝室はベットを二つ並べ間にナイトテーブルを置くことが基本なので、室の
形状や収納の位置によって多少違ってきますが基本的に奥行き有効2500以上巾
有効3500以上の広さを必要とします。巾はナイトテーブルを省略したりダブル
ベットを用いたりして調整可能ですが、奥行きはベットの長さが2000程度ある
ので通路スペースを考えると2500程度確実に確保するべきです。バルコニー等
がありれば出入り口の窓から750から1000ぐらいベットを離したいところです。
ドレッサーや洋服箪笥等他に家具を置いたりすることを考えれば8畳程度ほし
いと思います。マンションでは7畳前後になっているケースが多いと思います
が、多少狭く感じます。ウォークインクロゼットを設ける場合、奥行き寸法有
効1200以上とします。扉巾700で主寝室側に開きますので、ベットにぶつから
ないように注意しなければなりません。スペースを必要とするので引戸を用い
る場合も多いです。

洋室、主寝室に共通して言えることですが、テレビ、パソコン、電話用のアウ
トレットの位置は家具の配置をよく考えて決めることが大切です。それにより
部屋に広さに影響を与えることもあります。

次回は水廻りとリビングダイニングの必要スペースを中心にお話させていただ
きます。



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   §26 各室の大きさ 2

前回に引き続き、部屋の大きさを決めるポイントをマンションの規格寸法を例
に、今回は水廻りとリビングダイニングについて説明させていただきます。

トイレの大きさは内法寸法800(ミリ 以降この記事に於いて共通)かける
1300以上としている場合が多いです。タンクレストイレの普及により1300をも
う少し小さくしても問題はないと思いますが、全面に余裕が無いトイレは落ち
着かないかもしれません。使用する人の体格によっても違ってきます。またト
イレは便器の正面側から入るよりも、側面側から入るようにした方が、体の向
きを室内で変える必要が無く高齢者の方には使い安くなります。扉の巾は600
が標準で外開きにします。

洗面脱衣室は洗面化粧台、洗濯機パンと壁との間の脱衣スペースを800以上確
保します。化粧台キャビネットの巾は1000から1200以上奥行600が基本寸法で
す。洗濯機パンは奥行640、巾は2槽式の洗濯機で800または900、全自動型で
640です。この他にドラム式洗濯機に対応した巾740のタイプも新しく出てきま
した。最近は全自動型が普及していますので640角の洗濯機パンで計画するこ
とが多くなりました。扉は巾700程度とし、洗濯時に開け放しに出来るので殆
どの場合引戸にしています。

キッチンの作業スペース(厨房セットから壁、食器棚、冷蔵庫まで)は750以
上必要です。出来れば800確保したいところです。厨房セットの奥行は通常
650、食器棚の奥行は450が標準です。冷蔵庫のスペースは巾750から950、奥行
700程度としています。

リビングルームの奥行はリビングセットを置き、人が通れるスペースを確保し
ます。出来れば有効3000以上が望ましいです。同様に、ダイニングも有効2600
以上(対面カウンターがある場合はカウンター先端から)確保したいところで
す。使用家具や窓、バルコニーへの出入り口、キッチンカウンター等の位置に
より必要スペースが違ってきますので事前にしっかりレイアウトすることをお
勧めします。またダイニングテーブルの位置は設定と違ってくることが多いの
で、コードペンダントの天井下地は大きめ(900角程度)に入れておく必要が
あります。

2回に渡り取り上げさせていただいた寸法は、マンションのユニットタイプを
計画する時の基本寸法です。戸建の場合必ずしも当てはまるとは限りませんが
、機能的に使いやすい大きさは存在し、広ければより好ましいということもあ
りません。限られたスペースを有意義に使っていただきたいと思います。



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   §27 空間を仕切る

以前、このメールマガジンの中で機能を限定し部屋を細かく分けることは空間
を貧弱にしてしまうというお話をさせていただきましたが、広い空間を仕切る
こと、あるいは間に部屋本来の機能以外の要素を加えることによりその部屋の
表情がガラリと変わることがあります。

例えば、2階にリビングとダイニングを配置する計画でリビングとダイニング
の間を1階玄関ホールの吹き抜けで仕切ります。リビングとダイニングの行き
来は吹き抜けに面した廊下で繋ぎます。リビングとダイニングの吹き抜けに面
する壁は1200ミリ程度の高さにして吹き抜けの明るさを十分感じられるように
し、リビング、ダイニングお互いの様子を伺えるようにすれば程よい連帯と距
離を確保できます。来客の時はブラインドでリビングの壁上部を閉じれば家族
でダイニングを使用することが出来ます。

現在の住宅はリビングルームとダイニングルームを一緒にしてリビングダイニ
ングルームとして計画することが圧倒的に多くなりました。この手法は家族が
集まり寛ぐ空間の理想像を描いたとき、室が広くなり、機能の融合が図られ、
キッチンとの動線もよい合理的な考え方として急速に普及しました。しかしこ
こに客間の要素を取り入れると問題が生じます。リビングダイニングルームは
家族が寛ぎ日常を晒している部分ですから、他人から見れば乱雑になりがちで
す。上記の計画では間に吹き抜けを入れることにより、広々とした空間を維持
しながらプライベートとパブリックのスイッチングに成功しています。

別の例で、昔からよくある和室中心の住宅では和室と外部空間を廊下で仕切っ
ています。中間領域としての縁側の機能については何度か取り上げさせていた
だきましたが、和室自体にもいい影響を与えます。廊下と外部の間にガラス戸
と雨戸がつき、和室と廊下の間に障子がつきます。これにより四季折々朝昼晩
、採光、通風、目隠しの調整を繊細に行うことが出来ます。また和室から庭を
見るとき、廊下を介して庭を見た方が窓から直接見るよりも奥行を感じます。
廊下の外に庇があれば、梅雨時に扉を全開にして家の中から雨の庭を眺めるこ
とができ自然の情緒を空間に取り入れることが出来ます。

空間を上手く仕切ることは、思わぬ恩恵をもたらしてくれます。コツとしては
「繋ぎながら切る」ということでしょうか。身近なところで家具の配置換えを
工夫しただけでも大分違ってくると思います。また家を計画するときは間取り
が決まった時点で満足せず、解体、構成を何度も繰り返すことにより多くの工
夫が発見できるはずです。


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   §28 段差を考える

住宅には色々な理由により多くの段差が生じます。木造の住宅であれば床下の
換気を確保する為に敷地と段差が生じ、道路からの雨水浸入を防ぐ為に敷地と
道路には段差を設けます。また風により雨水の吹き込みを防ぐ為に玄関扉や掃
きだしの窓のある床レベルは、屋外床レベルより数センチ高くするのが普通で
す。その他浴槽は床から大きく立ち上がり、洋室と和室の間では畳の厚さの段
差が生じることが良くあります。

これに対して住む者が安全で使いやすい段差があり、住宅を成立させる為のレ
ベル差との調整が住宅設計にとても大きなウエイトを占めています。その家に
住む者が若者か高齢者か、車椅子を使用するかしないか、その土地が雨水の溜
まりやすい低い位置にあるかどうかなどを総合的に考えて答えを導き出さなけ
ればなりません。

色々な意味で段差が集中する玄関を例に考えてみることにします。施主の家族
には車椅子を使用する者がいて、若者、高齢者も一緒に住んでいて雨が多い地
域で土地も比較的低い位置にあるとします。こうなると機械的処置をする以外
はスロープを設けなければ計画は成立ちません。スロープは1/14程度の緩やか
な勾配にする必要があり、20センチ程度の段差でも3メートル近くの長さが必
要になります。車椅子が抵抗を感じず乗り越えられる段差は通常1センチ以下
です。玄関と外部床とのレベル差を考えると雨水の吹き込みに注意しなければ
なりません。またお年寄りが靴を履く為には玄関土間と上框のレベル差は20セ
ンチ程度ほしいところです。一寸考えただけで多くの問題が出てきます。

上記の問題の一般的な解決方法を考えてみると、玄関前に敷地を確保してスロ
ープをつくり、玄関先にかかる庇の奥行を深くして、玄関の床レベルと外部の
床レベルを同じにしても雨水の吹込みが無いようにします。上框の近くに手摺
と下駄箱に収納できる椅子を用意し高齢者が靴を履きやすくします。玄関扉は
引戸にして車椅子の出入りに支障がないようします。何とかなりそうな気がし
てきましたが、現実的にスロープの敷地が確保できないとか、靴を履く度に収
納式の椅子を出し入れするのが面倒といった問題は残ります。

別案としてもう一つ出入り口をつくってしまう案が考えられます。玄関は若者
、高齢者が使いやすく雨水の問題も無いような段差を確保したものをつくり、
別に住宅に併設するガレージに直接入れる出入り口を設けます。ガレージ内の
床に勾配を付ければ、段差解消用のスロープとなります。ガレージ内から室内
に入る出入り口であれば雨水の問題も解決できます。同時に車を降りて直ぐに
家の中に入ることが出来る動線も確保でき、荷物が多いときなどとても便利で
す。

あるデベロッパーの社長が竣工したマンションを見に来たときに、和室とLDに
段差がないことに気付き、「これからは段差を大きく取る時代が来る」と話し
て下さいました。高齢者のことを考慮して段差をなくしたのですが、つまずき
に拠る危険を解消できても、床に座って立ち上がる行為が高齢者には結構辛く
、30センチほどの段差があったほうが楽に和室に上がることができるというこ
とでした。私はお話を伺いながら、加えてLDに椅子に座った視線と和室の床に
座った視線の高さが近くなりコミュニケーションにもいい効果をもたらすと思
いました。

多くの問題が存在しても、発想の転換により問題ががない時よりも面白い住宅
が出来ることはよくあることだと思います。上手く行かないことにぶつかって
も問題の本質に戻って考え続ければよいアイディアが生まれ、それが新しい住
宅を創る力になります。



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   §29 壁を意識する

住宅をつくるとき必ず壁は必要になります。当たり前に存在するものだけに壁
のみを取り上げて考えることは少ないと思われますが、壁の扱い方によって住
宅は大きく変化します。今回は壁を意識することが住宅にどのような影響をも
たらすか考えてみたいと思います。

住宅の壁の機能は、部屋を仕切ったり、構造材として屋根を支え風を受止めた
り、音や視線を遮る役割があります。また外壁は家の形をつくりだす大変重要
な役割を担っています。家は通常、箱型になっていて外観上は一つの物体に見
えます。しかし外壁の角でどちらかの壁を延ばすことにより箱の一面であった
壁が、一枚の盤として形態を主張します。その上他の面と違う色で塗ればその
壁は形態的に独立した印象を強く受けるようになります。一つ一つの部材の存
在感を主張するデザインはモダンデザインの手法として良く使われています。

厚さ1センチに満たないレンガタイルを外壁に貼った家の角を見ると、厚みの
あるレンガが積み重ねてあるように見えます。(ごまかしといえばその通りで
すが)角を上手く見せることによって仕上材の存在感を感じさせることが出来
ます。役物(コーナー用に直角に貼り付けたタイル)が増えてお金が掛かりま
すが、窓のダキをとったりして角を増やすことはレンガタイルの効果的な表現
方法です。

部屋を仕切る役割としての壁を考えた場合どのような仕切り方が適切かよく考
え、それにあわせて壁を変化させた方が面白い住宅になると思います。現在の
住宅では壁にドアが一枚ついているだけの家が多く、もっと色々な壁を取り入
れても良いと思います。バスルームやトイレなどを明るくする為にポリカーボ
ネート板を用いて光を通して視線を遮る壁にしたり、子供部屋の壁をルーバー
にすれば、独立性を保ちながら子供の気配を感じ取ることが出来る壁になりま
す。古い和風の住宅は壁の代わりに建具を用いてそれを行っていたような気が
します。障子であったり、襖であったり、木の引戸等を上手く使い調整機能を
持たせていたのではないでしょうか。

壁は直接手で触れるものですから、全てをビニールクロスにせずに仕上材を色
々変えてみることも面白いと思います。コンクリート打放しの壁があったり、
コルク張りの壁があったりすればその感触の違いが日常に変化をもたらすと思
います。水性ペンで落書きが出来るプラスチックの壁もあったら楽しいかも知
れません。

壁は意識しなければ、同じような白い壁が立ち並ぶだけです。壁一枚一枚につ
いて思いを巡らすことにより生活に多くの変化が生まれるはずです。



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   §30 住宅の配置

住宅を設計するときに先ず配置計画をしなければなりません。敷地の広さ形状
、道路と敷地の関係、近隣の建物の状況などの影響を考え決めてゆきます。中
高層の建物では法規的な条件が厳しく容積を確保する為に自然に大体の配置が
決まってしまいます。それでも高さを押えて幅を広くするか、フロアー当たり
の面積を押さえ高さを確保するかといった選択はあります。

住宅の場合規制がそれ程厳しくないので、狭小な敷地以外は割りと自由に配置
計画を考えることが出来ます。しかし自由であることは逆に決め手が無く、ど
のようなプランにするかよく検討して配置計画を進めなければなりません。

一般的な配置計画は南側に庭を確保し、住宅の長手の間口を庭に向ける南面配
置と呼ばれる形式です。道路がある面に玄関を配置して、南側に居間、洋室を
配置し、水廻りを北側に集めると大体のプランが出来上がります。日の当たる
庭が確保でき、居室の採光、通風の確保もしやすくなります。ただし敷地が小
さい為に建坪が押えられた場合、必ずしも期待通りの結果が得られません。面
積が小さい住宅は住宅の北側に水廻りを集めると通風がしにくくなります。そ
の場合北側に庭を少し残し、居間の南側と北側に窓を設けるような計画をしま
す。南側の庭が狭く成りますが、通風を確保でき均斉の取れた採光が期待でき
ます。1階が居間食堂と水廻りのみの構成になっている住宅はこの配置をよく
使います。

ロの字型またはコの時型のプランは敷地外の影響を受けにくく中庭を有効に活
用でき、日の当たらない北側に室を最小限におさえることが出来るので住環境
を整えるのに効果的な配置です。また同じ家の他の部屋を見ることが出来、空
間に奥行を感じることが出来ます。この配置を行う為にはある程度広い敷地面
積が必要で、平面的に廊下が長くなる傾向があります。

敷地が狭くても奥行の深い敷地であれば、敷地境界線付近に四方壁を立て敷地
手前に室をつくり、その先に庭、その奥に室といった庭を挟むような平面にす
ればそれ程大きな敷地でなくても中庭のある住宅ををつくることが出来ます。
安藤忠雄さんの「住吉の長屋」と同じような構成になります。室と室を繋ぐ屋
根はあった方が良いと思われる方は多いと思いますので中庭を少し小さくして
廊下をつくります。

良い住環境を手に入れるためには、しっかりとした配置計画が必要です。住宅
の場合自由度が高いので、疎かにしてしまう傾向にありますが熟慮すればそれ
だけ効果が得られます。また平面計画が上手く行かなくなったときは配置計画
に戻って計画を練り直すことが大切です。



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   §31 住宅の周辺環境

街を歩きながら住宅を観察していると、住宅そのものの機能や外観を重視する
ために計画敷地周辺から受ける影響を良く考えずに設計を進めてしまっている
状況を感じることがよくあります。住宅を設計する場合、当然周囲の環境を良
く考えながら設計を進めなければなりません。計画敷地内だけで完結するよう
な設計をしていると多くのリスクを伴うことになります。その結果思い描いて
いた機能や外観を得られないことになってしまいます。

敷地の周辺環境を考える上で大切なのは、今現在の状況だけを考えずに将来そ
の敷地の周辺がどのように変ってゆくか検討しなければなりません。具体的な
例を挙げると敷地の南側に広い駐車場があれば将来的にマンション等の高層建
築物が建てられる可能性が高いと思います。近くに計画道路があれば将来大き
な道路が出来て騒音に悩ませれることに成るかも知れません。雨水が溜まりや
すい土地に、道路レベルに近いレベルで住宅を建てれば将来大雨が振ったとき
浸水が予想できます。ハザードマップなどで確認しておく必要があります。将
来どうなるか解からない部分もあり、全てを悲観的に考えて設計を進めること
は良くないと思いますが、ある程度の配慮や対応方法を考えておいた方が良い
でしょう。

今現在の状況を把握して置くことも大切です。隣の住戸の窓の位置や建物の高
さ、前面道路の交通量の多さなどは確認して設計を進めるべきです。北側の居
室の正面に隣の住宅の窓がある場合、相手の主要居室(リビングルーム等)が
正面に来ますので、型ガラス(曇りガラス)等を使って視線を遮るようにしな
ければなりません。通風を確保することを考えるとガラスルーバー窓等の利用
をお勧めします。南側に隣の住宅の北側窓がある場合、こちら側の居室が主要
居室になりますが、後から住宅を建てる側からガラスを変えることを隣の住宅
に要望することは難しいので、敷地境界上に塀や生垣をつくり住宅内にブライ
ンドを用意する必要があります。

敷地が狭く、住宅が密集している場合や交通量の多い道路が近くにある場合、
主要な居室を地下に計画して、ドライエリアを設け採光と通風を確保する方法
が考えられます。周囲の状況から独立した落ち着いた環境を手に入れることが
出来ます。住宅の地下面積は法定容積の1/3を限度として容積算定上の面積に
算入しなくてよい法律があり、同じ敷地でも延べ面積が大きい住宅を建てるこ
とが可能です。但し地下工事は建設費が多額になることを考慮しなければなり
ません。

また、住宅密集地であっても2階のレベルであれば周辺の空間が開けているの
で、主要居室を2階に配置することによりある程度開放的な空間を手に入れる
ことが出来ます。

住宅を建てる場合その土地の特徴をよく掴み悪い条件に目をそむけず、むしろ
欠点を利点に変えるような積極的な姿勢が大切だと思います。



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   §32 時間を意識する

住宅を建てようと思われている方は将来自分が住むことになる空間を意識する
と思われますが時間を意識することは少ないかもしれません。しかし空間と一
緒に時間を意識することは建築の設計にとても大切なことです。時間を意識す
ることによって、空間がどのように使われ自分の生活にどのような影響を与え
るか大きく変化します。

時間を設計に取り入れるとき、色々なスパンで時間を考えてみる必要がありま
す。先ず自分の一日の生活を時間を追って意識してみます。何時に起きて、何
時に朝食を取りといったことを意識的に記憶します。その生活パターンによっ
て設計内容が変るはずです。例えば同じような時間に出勤通学に出かける家族
であれば、トイレや洗面台が複数あった方が良いと思います。家族で起きる時
間がまちまちであれば、熟睡できる工夫が必要になるかも知れません。帰宅す
る時間が違い、子供達だけの時間帯が多くなるようであればセキュリティの強
化の必要性を考える方もいるでしょう。時間を意識することでその部屋、その
設備がどのような使われ方をするか具体的に解かるようになってきます。

スパンを長くして1年間で考えて見ます。春夏秋冬どのような時間の使い方を
しているか意識します。また1月から12月まで家族で行う習慣、行事なども考
えて見ます。そこからは「桜が見える窓がほしい」とか、「夏にバーベキュー
が出来る庭がほしい」あるいは「正月に人が集まる場所が必要」といったこと
に気がつきます。結局、生活行為の分析をしている訳ですが、その時間をどれ
だけ有意義に過せるか考えることは楽しいことですし、住宅設計を行う上で必
要なことだと思います。

建築にとって最も意識するのが数十年といった長いスパンの時間です。こちら
は家族構成の変化、構造耐力の必要性などを強く意識させられます。また時間
を経過した住宅は趣があり、そこで過した出来事の蓄積があるはずです。それ
を心地よいものにするような工夫を住宅をつくる段階から意識することもある
と思います。一生使えるような家具を設えたり、特徴的な窓を設けたり、広い
土間の遊び場をつくる等設計に盛り込めば、家族はそれを意識して長い年月生
活を送るようになり共通の認識(思い出)が残ります。

時間の経過を意識することによって多くの発見があり、それを設計に取り入れ
ることで、計画性や合理性と将来の生活に対する夢を手に入れることができま
す。



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    §33 住宅の植栽

住宅を建てるとき、植栽のことを考えない人は少ないと思います。居間が1階
にあればそこに面して庭を配置し、必ず植栽をして日常生活との融合を考える
のではないでしょうか。都市住宅においては広い庭を設けることが難しいこと
が多く、その上カーポートを用意すると植栽をするスペースが殆ど無いケース
もあります。そんな時でも僅かなスペースを使って多くの方が植栽を植えるこ
とを考えます。人は暮らしにおける植栽とのかかわりを重要視します。

住宅の設計をしていると庭の植栽配置まで仕事の範囲に入ることが通常で、ラ
ンドスケープデザイナーが関わったり施主が自分で決めることは余りありませ
ん。建物と植栽は密接が関わりがあり、住宅を設計するものがある程度植栽計
画を行うことになります。ただ誰もが子供の頃から樹木や草花と関わりを持っ
て生活を続けてきているはずですから、他人任せにせずに自分の希望を出来る
だけ取り入れられる計画にすることは大切だと思います。住み始めてから庭か
ら受ける印象が全然違ってくるのではないでしょうか。植栽から住宅計画自体
に大きな変化をもたらすことも少なくありません。

住環境の側面から植栽を考えると、南側に落葉樹を植えれば夏に葉が茂り日差
しを遮り冬には落葉するので日差しを室内に取り入れることが出来ます。また
北側に常緑樹を植えることにより冬の北風を遮ることが出来ます。窓の前面に
道路や隣地がある場合、ある程度開放感を保ちながら視線を遮るために植栽を
生垣状に植えることがあります。防暑・防風・防塵の役割も同時に期待できま
す。植栽は景観を魅力的にするばかりでなく多くの機能がありますから有効に
活用できるように工夫しましょう。

住宅の植栽を計画する場合大きく分けて庭、アプローチ(玄関廻り)、敷地境
界の3ヶ所を意識することが大切です。庭の植栽は日常生活に直接影響し、ア
プローチの植栽は外来者に影響を与え、敷地境界の植栽は建物の外観に大きな
変化をもたらします。これらの場所は意図を持って植栽を配置する必要があり
ます。また和風の植栽計画をするか洋風とするか、自然の状態の植栽にするか
定期的に刈り込みを行うか意識することも計画をまとめる上で重要です。

植栽の専門家は庭がクライアントの生活になじむまで5年かかるといいます。
またクライアントの実力以上の庭は出来ないともいいます。そこに住む人が手
入れを怠ってはいけないということでしょうか。生き物を扱うにはそれなりの
覚悟が必要なようです。ただ日々成長を続けるものであるので、手入れをしな
がら一緒に成長できれば豊かな日常が手に入れられると思います。



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    §34 寸法の追加

住宅内の寸法を決めるとき出来るだけミニマムな数値で決めて、空間を有意義
に使いたいと思うことが多いと思います。しかし単純に物の大きさだけの寸法
を押えていると大きな失敗をしてしまいます。建築の仕事をしている者にとっ
て当たり前のことでも、一般の方には意外と気がつかないことも多く、住宅を
建てようと思っている方が間取りを考える際に寸法の追加を考えなくてはいけ
ない例を幾つか挙げさせていただきます。

先ず建具廻りについて考えて見ます。戸袋に引き込む引戸を設ける際、引き残
しを用意する必要があります。扉が全て戸袋の中に入ってしまうと扉を戸袋か
ら引き出せなくなってしまいます。通常60ミリ程度の引き残しを設けます。そ
うすると開口寸法を800ミリとっても実際は740ミリしか開口として使えなくな
ります。小口に回転引き手をつければ引き残しを設けなくても引戸は機能しま
すが、頻繁に開け閉めする場所にはお勧めできません。また開き戸は開口の両
側に15ミリ程度の戸当りがあるので800ミリの開口を設けるためにはドア幅830
ミリになります。細かい寸法ですが家具の配置に気を使わないと扉がぶつかる
ことがあります。またドア幅=開口寸法という意識があると入ると思っていた
家具が部屋の中に入れられないということも生じます。

キッチンの作業スペース(厨房セットから壁、食器棚、冷蔵庫までのスペー
ス)は750ミリ以上必要です。単純にこのスペースを用意するだけではなくそ
こに置く食器棚の寸法や、冷蔵庫の寸法を考えなくてはいけません。食器棚の
奥行は450ミリ、冷蔵庫の奥行は700ミリ程度見ておく必要があります。また洗
面脱衣室など狭い空間では棚の扉を開けると身動きが出来なくなってしまうこ
とが良くあります。全ての扉を開いた時行動範囲が確保できるか確かめましょ
う。

給湯器、空調室外機の周囲には空間を確保する必要があります。怠ると効率が
悪くなったり、火災に繋がることもあるので、メーカーから提示されている寸
法(機種により必要寸法が違うので注意が必要)を確認しましょう。また窓上
部に空調機を取り付ける際、空調機の高さ寸法より100ミリ(最低50ミリ)程
度窓から天井までの寸法を確保しないと取り付けが困難になります。

ここに挙げさせていただいた内容は追加が必要な寸法のごく一部です。極端な
ことをいってしまえば部材そのものの寸法で納まるものはないと言っても良い
と思います。ただその寸法は微小のものが多いので、注意すべきポイントを押
さえれば大きな問題になることは少ないと思います。シビアな部分は必ず詳細
な図面を描くことをお勧めします。



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    §35 照明について

住宅にとって照明は機能的な面のみならず、空間の演出効果という点から見て
も無くてはならないものです。住宅の間取りを考える際、一緒に照明について
も考えておけばより効果的な照明計画となります。照明に対するイメージを膨
らませ、それを設計の中に取り入れることはとても大切で、マンションのエン
トランスホールや商業建築、ホテルのロビーなどは照明計画にかかるウエート
が大きく、それによって建築計画が左右されることも良くあります。

住宅に於いても照明計画を考えることは、空間の効果を考えるきっかけになり
ます。間取りを考える場合先ず部屋が機能的に使えることが優先されると思い
ますが、そこに外観の美しさ、日当たりのよさ、風通しのよさなどを加えて行
き全体としてまとめて行くようになります。更に一緒に照明計画を考えること
により空間の奥行や光の演出といったことに対するイメージを持つようになり
、天井の高さや部屋の形状にも変化を加えるようになってゆきます。そのよう
にして考えた照明計画はただ明るければよいといったものではなく、そこに住
む人の心に印象的な何かをもたらすと思います。

機能的な面から照明計画で必要なことは、必要照度を確保できるか、電球を取
り替えることが出来るか、スイッチの位置に問題は無いかといったことだと思
います。このうち疎かになりがちなのが、スイッチの位置です。かなりのベテ
ランの設計士でもスイッチの計画は迷うことが多く難しいものです。例えばト
イレのスイッチはトイレの外の廊下側に付けるの普通です。トイレは狭い空間
で扉が外開きになっているのでトイレに入る前に照明を点けて出るときは扉を
閉めてから照明を消すほうがスムーズに行動できます。しかし洗面脱衣室のス
イッチは洗面脱衣室内に設けることが多いです。これは洗面化粧台のスイッチ
を室内から消したり、浴室に入る際室の照明を消す必要があるからです。廊下
にスイッチがあれば裸で一度廊下に出なければならなくなります。寝室のスイ
ッチも就寝する際枕の近くにスイッチがないととても困ります。長い廊下や階
段には三路スイッチを設け移動した先でスイッチを消せるようにしておかなけ
ればなりません。基本が解かっていても色々な状況が絡んでくると、使いづら
い計画になってしまう部分が出てくることも少なくありません。

照明効果という点から考えることはその空間を明るい空間にするか、明るさを
押えた空間にするかで大分違ってきます。部屋の隅々まで明るい空間は健康的
で生き生きとした生活空間がイメージできますが、空間の奥行を効果的に演出
するには明るさを押えて、明るい場所と薄暗い場所をつくったほうが効果的で
す。また光源を分散するか集中するかでイメージは大分違ってきます。間接照
明などで光源を分散すれば均一な灯りになり部屋全体が同じような明るさにな
ります。光源を集中させれば影ができ明るい部分と暗い部分が生じます。天井
照明を用いずスタンド照明のみにした場合などはかなりはっきりとした明暗が
生まれます。機能的な制限から室内では思い切ったことは出来ないかも知れま
せんが屋外の照明など凝って見ても面白いと思います。

人はそれぞれ灯りに対するイメージを持っていて、心動かされた経験もあると
思います。それを住宅の中に上手く取り入れれば変化ある生活事象が生み出さ
れ、多くの思い出が残る住宅となるのではないでしょうか。



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    §36 リビングアクセス

リビングアクセスという言葉をご存知でしょうか。共同住宅などでは通常共用
廊下側に個室(洋室等)が来て、リビングルーム等の寛ぎのスペースはバルコ
ニー側に来るのが普通です。しかしこのような間取りが連なると、共用廊下側
は閉ざされた空間となってしまいます。そこで住棟内の良好なコミュニティを
意識して共用廊下側にリビングルームを設けて各戸の表情を積極的に表に出し
、居住者同士の交流を期待する間取りをリビングアクセスといいます。戸建住
宅でも玄関がリビングルームに直接繋がり、リビングルームを経由して各室に
行く間取りをリビングアクセスといっています。

リビングアクセス型の集合住宅は25年ほど前に何棟か造られましたが、今では
殆ど見られません。住棟全体としては活気が生まれ効果があったと思いますが
、プライバシーの問題やバルコニーを機能的に使えない等の問題で普及するこ
とは無かったようです。ただし戸建の住宅では今でも間取りを考える上の一つ
の有力な手法として健在しています。

住宅に於けるリビングアクセスの最大の利点は各個室に行くのに必ずリビング
ルームを経由することです。子供の出入りに気付き、コミュニケーションが取
りやすくなるのであえてこの間取りを選ばれる方が多いようです。また廊下と
リビングルームが兼用されているので、廊下の面積分を他の部屋に使うことが
出来合理的です。階段をリビングルームに面してつくり吹き抜けを設ければリ
ビングルーム自体の空間も豊かになります。一声かければ各室に声が届く一体
感ある住宅になってくるのではないでしょうか。

欠点としては、玄関に入ってきたお客に寛ぎの場をさらけ出すことになりやす
いことです。玄関先だけで用が済むお客に対しても一寸した緊張感が生まれま
す。また続き間のような間取りになることが多いので、各個室の独立性が確保
されない点も気になる部分です。何れにしても利点欠点諸刃の剣のような計画
になるのでよく検討される必要があると思います。

日本の住宅は昔から開放的で、玄関から身を乗り出せば家の中が伺えるような
住宅が多かったと思います。モダンリビングが普及して各室の独立性が保たれ
健康的で機能的な住宅が増えたと考えられますが、失ったものを考え直すこと
も必要な気がします。良くある間取りに物足りなさを感じる方はリビングアク
セスを取り入れてみても良いのではないでしょうか。



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    §37 色の決め方

住宅を設計する際に色を決める作業は大きなウェートを占めます。建物の仕上
げの色は当然ですが、その他にも家具の色や設備機器の色を決めたり、細かい
部分では照明の光色やサインの文字色も決めなければなりません。

色決めはセンスで決まるといってしまえばそれまでですが、基本的な考えに従
って順序良く考えを進めて行きそれをベースに自分の感性を加えていけば、誰
でもまとまりがあり自分の意に則した色彩計画が出来ると思います。色彩に関
する基本的な事項は他に譲ることにして(下記ホームページを参照してくださ
い)ここでは私の経験から色彩計画でポイントになる内容について説明させて
いただきます。

色を決めるポイントとなる
1.色調を意識する
2.中心(ベース)となる色を意識する
3.表現方法を意識する
の3つのポイントを紹介させていただきます。基本的には1、2、3の順に決め
て行きますが明確に表現したいものがあれば順序は変ります。

1.色調を意識する
色調とは暗い、明るい、渋い等の言葉で表現されトーンと同意で使われます。
その空間をどのように表現するかとても大切な要素です。多くの場合建物を設
計している中でそのイメージは出来上がってきます。解かりやすい例では、マ
ンションの住戸などは不特定の方が入居される関係から「均一」という色調に
なっていると思います。イメージの出来上がった色調にまとまる様に室内の部
分の色を決めて行きます。

2.中心(ベース)となる色を意識する
色調が決まったら、それをどんな色を中心にまとめるか決めて行きます。先程
のマンションの住戸の例では当然「白」が一番まとめやすいですが、自分の好
みでいろいろな色に挑戦してみるのは大切なことだと思います。例えば色調が
「明るい」となっているところに「茶」をベースにしようとすると全体が暗め
になってとても難しいですが、ベージュをうまく使い全体的に茶色ベースに明
るい空間をまとめれば、品の良い空間が出来るのではないでしょうか。

3.表現方法を意識する
何か特別に表現したいものが無ければ2.で終わってよいのですが、「コントラ
ストを強調したい」とか「ツートンカラーを取り入れたい」とか「模様貼りに
挑戦したい」といった個性的な表現を加えたいときは必ず色調に戻って計画を
進める必要があると思います。色の強い個性は空間全体のイメージを変えてし
まいます。最初に決めた色調に合わせながら表現を加えるか、それを壊しても
個性的表現を重視するか判断が難しいところです。しかしその葛藤は何か新し
いものを創る上で必要なものなのではないでしょうか。

色は好みで自由に変えることが出来ます。それだけに決めるのが難しい部分が
あると思います。些細なことでも個性的な色彩になるように意識した方が満足
できる空間になるはずです。色を意識しながら、街をみて、建物をみて、服を
みて、雑誌をみたりしながらあれこれ悩む時間を「幸せな時間」と思うのは私
だけではないと思います。


色彩検定ガイド(色彩に関する基本事項、色の見え方・心理効果、配色のテク
ニック等が紹介されています)
http://www.color-sp.com/050basic/



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    §38 構造耐力について

大きな地震が立て続きに発生して自分の家が倒壊することはないか心配してい
る方もいらっしゃると思います。建築を設計する時、経済的な理由から構造耐
力の目標値を「法基準クリア」とすることが多いと思います。確認申請が許可
されないということもあるのですが、国の基準に従っておけば先ず安全だろう
という判断です。現在の法基準は何度かの法改正を重ねかなり安全な基準にな
ってきていると思いますが、今から30年ほど前は現在よりもかなり緩い基準で
あった訳で、安全に関する考え方は時代によって変るのではないでしょうか。
今後どのような規模の地震に巡り合うか予測できないのですから、余裕を持っ
た設計が必要だと思います。その上将来太陽光発電等の機器を屋根に載せるよ
うなことがあった場合、規準ギリギリでは載せることは出来ません。また構造
部分(躯体工事)にかかる費用を2割程度増やすと建物の耐力は飛躍的に向上
するといわれており、住宅のように仕様を個人で決めるられる建物では、余裕
を持った構造計画を考えてみても良いと思います。

住宅の建築構造を決定する要因は主に風力と地震と積雪に拠る力です。木造、
鉄筋コンクリートの壁構造、レンガ等の組積造等では壁量(壁長)によって風
や地震に対する耐力が決まります。風力は建物をX方向、Y方向に分けてそれぞ
れの面の風を受ける力に耐えうる壁量(壁長)がその直角方向に必要になりま
す。例えば長方形の平面で南側が長辺であれば、その直角方向の東西面の壁が
南北面より多く必要になります。地震は「X方向、Y方向同じ力が働く」と考え
ますので両方向に地震力に耐えうる壁量(壁長)が必要になります。詳しい内
容については省略させていただきますが、感覚的に壁量(壁長)の決め方がお
解りいただけたと思います。木造の場合は壁が少ないときは筋交を太くして耐
力をまかなうようにします。それでも足りなければ、開口を小さくしたり望ま
ぬ部分に壁が出てきたりするのでプランに影響が出てきます。間取りを考える
ときにある程度構造のことも考慮しなければなりません。

木造の場合、構造が華奢な建物は軽度の地震であっても気持ちの悪い揺れ方を
します。構造的に頑丈な建物でも地震が来れば当然揺れますが、確り荷重を支
えているような揺れ方をします。災害に備えるだけでなく日常の生活に安心感
をもたらす効果もあると思いますので、構造に贅沢をしてみてはいかがでしょ
うか。



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    §39 必然的要素

建築の意匠は本来建築の中に存在するものをデザインし構築するものだとよく
言われます。具体的に例を挙げさせていただけば、柱や梁等の構造的要素、壁
や屋根等の外見的な要素、窓や階段等の機能的要素、全て建築に欠かせないも
のです。これらをデザインして建築を創るべきで、壁に絵を描いた様なデザイ
ンや看板を付けたようなデザインは建築の構成からはずれ、これらを強調する
とハリボテ建築になってしうということをよく言われました。ハリボテ建築の
わかりやすい例は、建築といえないかも知れませんがアヒルの形をした遊覧船
などをイメージしていただければご理解いただけるのではないでしょうか。

アヒルの遊覧船もそれなりに存在理由は有るのですが、建築を創ることを志し
た以上、力と力、材と材、光と影、機能と生活、過去と未来が混ざりあう必然
的要素を構築し空間を創りだしたいものです。必然的要素という言葉を使わせ
ていただきましたが、空間を意識するとそこに色々な要素がぶつかり合い、そ
れを巧みに構成することにより自然や風土、歴史等が日常と結ばれるようにな
ると思います。必然的に存在してしまうものをどのように取り扱うことが出来
るかは、建築を創る上で根源的な課題であり、上手く解決できれば人が生活す
るうえで大切な要素を空間の中に取り入れることが出来ます。

建築が先か空間が先かということを考えれば恐らく空間が先に存在して、その
空間を充実させる為に、柱や梁や窓が出来て来たはずです。そして欲望を満た
す為、非常に多くの要素を空間の中に取り入れ多種多様の建築が生まれてきた
のだと思います。ただ現在では経済性、合理性という要素が加わり、生活の器
としての機能を満たす為に情緒的な部分は削除されてしまう傾向があるようで
す。

住宅を創るとき、空間を構成する必然的要素に目を向けてみることは大切なこ
とだと思います。その上で合理性を追求しても良いのではないでしょうか。建
築の中に存在しなければならないものが、家の中でどうあるべきか意識してみ
ると住宅に対する考え方がちがってくるはずです。一つ一つの窓の意味、力と
力を結び付けている柱、梁、日常を包み込む光と影等を感じとっていただきた
いと思います。



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    §40 間取り係数について

間取り係数という言葉をご存知でしょうか。住宅全体の坪数を必要な居室(キ
ッチンも含む)の坪数で割った数字です。居室には居間、食堂、和室、台所、
寝室、子供部屋等で一定時間その場所で作業休息を行う室と考えてください。
部屋の面積といってしまった方が解かりやすいかも知れません。その他の廊下
、階段、浴室、便所、収納、玄関等はゆとりスペースと言われています。

この間取り係数が最低1.6必要というのが一つの目安です。実際には1.6ではか
なり厳しい設計になりますので出来れば2.0程度にしたいところです。一坪は2
畳ですから部屋の畳数の合計が家の坪数に近い数字になるのが一般的です。具
体的に計算してみると、居間10畳、食堂台所6畳、主寝室8畳、子供部屋6畳×2
で合計36畳の部屋をつくるには36×1.6=57.6畳≒28坪の延面積が必要になりま
す。間取り係数を2.0とした場合は36×2.0=72≒36坪の住宅を建てなくてはな
りません。工事費坪60万として1680万円から2160万円の費用が必要という結果
が導き出されます。必要な部屋の広さはイメージしやすいので工事費の概算を
出すのに最も簡単な方法と言えるかもしれません。

雑誌などで紹介されている住宅のプランで幾つか計算してみると、間取り係数
がどの程度あればどのようなプランになるかお解りになると思います。例えば
間取り係数が1.6の場合には玄関から直接居間に入るようなプランで且つ子供
室には小さな収納しか設けていないような計画になっていることが多いと思い
ます。2.0有れば廊下を設け各部屋が独立していて、収納にも余裕があるプラ
ンになっいるはずです。ただ大切なことは1.6だから悪い設計で2.0だから良い
設計ということではありません。1.6でも工夫しだいで使いやすい住宅になっ
ていることもあると思います。自分の生活状況やこれからの希望を良く吟味し
て何を優先させるかが重要になります。判断材料の一つとして是非ご活用くだ
さい。



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    §41 改装のすすめ

最近は分譲マンションでもフリープランに対応して販売されるケースが多くな
りました。これによりマンションの利便性、経済性と自分の思い描いた住居の
実現という今まででは同時には成しえなかったことを実現しています。本来マ
ンションは同じ住戸を連続させることにより、販売価格を抑え住環境を整えて
いるものですから、販売価格はかなり上がりますしフリープランといってもあ
る程度の制約を受けています。それでも人気が有るようで各ディベロッパーそ
れぞれ工夫を凝らし魅力的な住戸を提供しているようです。

住戸内を完全に自由設計(水廻りの位置と躯体開口部は除く)にするのであれ
ば中古マンションを購入して、内装をやり直すという方法があります。首都圏
の中古マンション(築30年程度)は新築のマンションの半額程度で購入で来る
ようですから、完全に内装をつくり直しても通常の統一プランの新築マンショ
ンよりも安く手に入ると思います。憧れのデザイナーに設計してもらい贅沢な
材料を用いることも可能かも知れません。気を付けなければならないのは、外
観が古いままであること、設備が旧仕様なので新しい設備の導入が可能か確認
することが必要なこと、そして一番大切なのは構造強度の問題です。

しっかりとした監理の基でつくられた鉄筋コンクリートの建物は築50年間程度
であれば耐久性に問題がないと思われます。但し鉄筋の被り厚さが少なかった
り、コンクリートの配合が適切でなかったりすると築20年程度でもコンクリー
トが割れてきている部分があるはずです。合法的であっても、昔の基準でつく
っているので建築基準法上の規制が緩く、新築マンションに比べ強度が劣って
いる建物が多いと思います。特に耐震基準が大きく変わった昭和56年(認可
時)以前の建物は要注意です。ただ全ての建物が基準値ギリギリで出来ている
わけではないので、古い建物建物=倒壊しやすい建物ではありません。専門家
に確認してもらうことが大切です。

戸建住宅でも古い民家や洋館のような外観が気に入りそれを生かした住宅にし
たいという場合は、古い家を購入して内装を変えれば十分使える住宅になりま
す。木造であれば構造補強も容易ですし、増築して部屋を増やすことも出来ま
す。理想の家を創ろうとしたとき全てをゼロから始めるのではなく、今あるも
のを有効に使い自分の理想に近づけることも考えてみてはいかがでしょうか。


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      §42 最低限の寸法

住宅を設計していると常に寸法の決定に迫られます。人の基本動作の寸法は法
規等で最低寸法が決められていることありますし、日常的な生活行為に必要な
寸法は建築資料集成等に記載されています。法規で決められている内容につい
てはそれに従うのは必然ですが、それ以外についてはある程度の幅の中から依
頼主にとって最良の数値を探し当てなくてはなりません。

建築資料集成等に記載されている数値は理想的な寸法であり、その寸法であれ
ば依頼主に断りを得なくても問題になることは少ないと思われます。ただ理想
的な寸法で全てが納まることは稀で、依頼主にとって問題にならない部分は調
整していかなければならないことが殆どだと思います。「後5センチテーブル
が動けば食器棚が置けるのに」という問題が出たときに壁とテーブルの距離を
5センチ縮めても良いか判断することは結構難しくかつとても重要です。その
判断にによって部屋の使い安さや機能が大分変わってしまいます。

その際大切になるのは実質的な最低寸法の認識です。テーブルと壁の離れは一
般的には60センチ取るのが基本ですが、最低50センチまでなら何とかなります。
座るとき少し窮屈ですが一度座ってしまえば問題は無いと思います。使う方の
体が小さく背もたれの無い椅子を使えば45センチまでいけるかも知れません。
またトイレの奥行は最低130センチとするのが基本ですが、便器をタンクレス
にして多少窮屈なのを我慢してもらえれば120センチまでなら狭く出来ると思
います。

使用される方の身長、体重や生活意識によってどこまで寸法を調整することが
許されるか判断しなければなりません。安全を優先して教科書にあるような寸
法を使っていれば安心ですがそれでは限られた空間を有効に使うことは不可能
でしょう。一つ一つの生活行為と対峙して建物全体から優先順位を意識しなが
ら決めていかなければならないと思います。またご家庭で家具等を購入する際
も、身近にあるテーブルや椅子等を使って実際に動作寸法を経験しながら判断
し購入することをお勧めします。


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      §43 プランニングの順番

住宅のプランを考えるとき、どこから考えるのが一番合理的でしょうか。マン
ションやホテル等は基準階と言われる住戸、宿泊階から考えるのが基本です。
そうしないと部屋の大きさでスパン割りが決まりますから柱の立て方が決まり
ません。最初に1階を決めてしまってから基準階を考えると1階の室の真ん中に
柱を立てなくてはならないといったことが発生してしまいます。木造の住宅で
あっても主要な柱は1階と2階同じ位置に無くてはなりませんから、基本は2階
の間取りから考えるべきでしょう。ただ玄関は1階にあることが多く、主要な
部屋も1階に集まる傾向があるので、2階のプランに大体当たりをつけてから1
階を中心に考えるという方法は間違っていないと思います。

先に申し上げたように柱の位置が重要な意味を持ちますので、まず三間の五間
といった長方形の中に間取りが納まるように考えるのが基本で、そこから必要
に応じて構造に無理が無いように部屋の大きさや機能を考えながら出部屋をつ
くったり、吹き抜けをつくったりするべきでしょう。大切なのは常に屋根の形
をイメージして外観を整えることです。また階段の位置により間取りは大きく
変化します。階段の位置が決まればほぼ完成といっても言い過ぎではないかも
知れません。階段の位置を変えたパターンをいくつかつくり、一番しっくりい
く案を煮詰めるという方法もあると思います。

上に記した内容はあくまでも基本です。テーマがはっきりしている場合はその
テーマを実現させることを最優先に考えるべきでしょう。実際には具体的な間
取りを書き始める前に多くの概念図的なスケッチを描くことになりますから、
順番どおりキッチリ進めるものでもありません。ただ基本が解っていないと完
成したと思ったら実際には建てられないので最初からやり直しということもあ
りますので、何を決めるときに何が決まっていないといけないかということを
常に考えながら手を動かすことが大切だと思います。



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      §44 坪庭をつくる

生活の中に自然環境を取り入れるため建物の中に坪庭をつくることは効果的で
す。坪庭は大きさや機能によって、中庭、ライトコート、ライトウェルと言っ
た呼ばれ方をされますが、つくり方が多様で間違った用い方をすると滑稽なも
のになってしまいます。建物全体のプランから取り入れられる状況を判断し必
要な機能をしっかり認識しなければなりません。

坪庭の機能を上げてみると、設備配管の集結、通風の確保、採光の確保、自然
環境(景観)の取り入れ、人の動線の確保等が上げられます。間口が狭く奥行
の深いプランでは中央付近の居室に通風、採光が確保できないことがよくあり
ます。そのようなとき坪庭を確保すれば問題が解決されます。また坪庭に設備
配管を集結させれば外観に配管を露出させなくて済み、メンテナンスも行いや
すくなります。坪庭に植栽をきちんと施せば、自然環境を室内に取り込むこと
が出来ます。そして対面する部屋と行き来する動線が確保できれば、部屋同士
の関係が密接になり住空間の可能性が広がります。

坪庭を取り入れるのに最も重要となるのはその大きさです。一般には先程取り
上げた機能の「設備配管の集結、通風の確保、採光の確保、自然環境(景観)
の取り入れ、人の動線の確保」では後者ほど大きな面積が必要になると思いま
す。それぞれどの程度の大きさが適切であるかは工夫次第と言えますが、参考
までに大雑把な必要面積を挙げさせていただくと配管設備、通風に関しては人
一人が作業できる程度の面積、採光に関しては、面する窓に直射日光が当たる
程度の面積、自然環境を取り入れるためには一坪(二畳)程度、人の動線の確
保のためには10平米程度だと思います。大きければすべての機能を取り入れる
ことが可能ですが、その為に屋内のスペースが小さくなるので判断が難しいと
ころです。また坪庭を設けることにより部屋の形状が歪になったり、廊下が長
くなる傾向がありますから、熟慮を重ね利点を生かせるプランニングが求めら
れます。

坪庭は室内からよく目立つ場所に配置され、設備配管用を除いては露出されて
います。まめに手を加えなければ不快なものとなってしまいますが、植栽の手
入れなど建物に囲まれていて結構手間がかかります。成功すれば大変よい環境
を手に入れることが出来るかも知れませんが、メンテナンスの方法も十分に考
えなくてはなりません。



                                戻る




      §45 複数の庭を考える

生活の中に自然環境を取り入れるため建物の中に坪庭をつくることは効果的で
す。坪庭は大きさや機能によって、中庭、ライトコート、ライトウェルと言っ
た呼ばれ方をされますが、つくり方が多様で間違った用い方をすると滑稽なも
のになってしまいます。建物全体のプランから取り入れられる状況を判断し必
要な機能をしっかり認識しなければなりません。

坪庭の機能を上げてみると、設備配管の集結、通風の確保、採光の確保、自然
環境(景観)の取り入れ、人の動線の確保等が上げられます。間口が狭く奥行
の深いプランでは中央付近の居室に通風、採光が確保できないことがよくあり
ます。そのようなとき坪庭を確保すれば問題が解決されます。また坪庭に設備
配管を集結させれば外観に配管を露出させなくて済み、メンテナンスも行いや
すくなります。坪庭に植栽をきちんと施せば、自然環境を室内に取り込むこと
が出来ます。そして対面する部屋と行き来する動線が確保できれば、部屋同士
の関係が密接になり住空間の可能性が広がります。

坪庭を取り入れるのに最も重要となるのはその大きさです。一般には先程取り
上げた機能の「設備配管の集結、通風の確保、採光の確保、自然環境(景観)
の取り入れ、人の動線の確保」では後者ほど大きな面積が必要になると思いま
す。それぞれどの程度の大きさが適切であるかは工夫次第と言えますが、参考
までに大雑把な必要面積を挙げさせていただくと配管設備、通風に関しては人
一人が作業できる程度の面積、採光に関しては、面する窓に直射日光が当たる
程度の面積、自然環境を取り入れるためには一坪(二畳)程度、人の動線の確
保のためには10平米程度だと思います。大きければすべての機能を取り入れる
ことが可能ですが、その為に屋内のスペースが小さくなるので判断が難しいと
ころです。また坪庭を設けることにより部屋の形状が歪になったり、廊下が長
くなる傾向がありますから、熟慮を重ね利点を生かせるプランニングが求めら
れます。

坪庭は室内からよく目立つ場所に配置され、設備配管用を除いては露出されて
います。まめに手を加えなければ不快なものとなってしまいますが、植栽の手
入れなど建物に囲まれていて結構手間がかかります。成功すれば大変よい環境
を手に入れることが出来るかも知れませんが、メンテナンスの方法も十分に考
えなくてはなりません。


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      §46 居室の採光

建築基準法では、住宅の居室(寝室、LD等)に於いて床面積の7分の1の有効採
光面積を採ることを義務付けられています。10平米(約6畳)の部屋であれば
約1.7平米の窓が必要となります。腰壁がついた窓であれば高さ約1.2メートル
ですから1.4メートル程度の巾が必要になります。ただしこれは採光補正係数
が1.0の場合です。専門的な言葉が出てきてしまいましたが、窓の位置により
光が良く入る窓もあればほとんど入らない窓もあるのでこの係数が決まってい
ます。基本的には窓の中心からその窓の直上の軒先までの高さと、隣地境界線
までの距離の関係で決まってきます。

この採光補正係数を出すにはやや複雑な計算式があるのですが、住居系の用途
地域(用途地域に住居という言葉が付く地域、第一種低層住居専用地域等)で
は先に示した、距離を高さで割った数値を6倍した数値から1.4を引いた数値で
す。軒先から隣地境界線までの距離がが2メートルで窓の中心から軒先までの
高さが5メートルであれば2割る5掛ける6引く1.4で丁度1.0になります。この数
値が0.5であれば窓の面積が半分しか有効ではなく、逆に2.0であれば2倍の面
積が有効となります。とりあえず1.0採るようにすれば問題は無いと思って良
いので、計算式を逆算して距離割る高さが0.4以上なるように注意します。つ
まり高さに0.4掛けた数値が必要な距離ということになります。尚、道路に面
する窓は無条件で1.0以上が認められます。

狭小の土地で間口が狭く奥行きがある土地などは、この0.4という数字に注意
しなければなりません。道路に窓が面しない部屋を敷地の奥に設ける可能性が
高くなるからです。敷地ぎりぎりに建物を建てようとすると、採光を確保する
ことが困難になります。例えば3階建ての住宅を想定すれば、1階の窓の中心か
ら軒先まで8メートル程度の高さになります。採光補正係数1.0を確保するため
には8掛ける0.4で3.2メートルの隣地境界線からの距離が必要になります。狭
小の敷地ではかなり確保が困難な数値です。そのためライトコートを設けたり
、上階の部屋をセットバックして距離を確保することが必要になります。間取
りに大きな影響を及ぼすことは間違いありません。2室採光(隣の部屋と一緒に
採光を採る方法)としたり、大きな窓や天窓を設けたりする解決方法はありま
すが、いずれにしても具体的な間取りを想定しないとその土地の価値判断が出
来ないと思われます。

建築基準法上の有効採光は実際に取得できる採光とは違います。燦々と光輝く
窓でも有効採光面積が0ということもあります。これは敷地境界線上いっぱい
に隣家が建つことを想定して法律が出来ているからです。現場を実際に見て明
るい部屋が出来そうという印象を持っても予期しない規制を受けることがあり
ますので、土地を購入する際には注意が必要です。



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    §47 敷地と道路の関係

今回も前回に引き続き法規に関係する話題を取り上げさせていただきます。そ
の土地にどのような建物が建つかどうかを検討する際に最も重要になるのが敷
地と道路の関係です。道路に関る法律はとても多く、かつ重要です。建物の形
態制限(道路斜線)、容積率、敷地境界位置制限等の規制を受けることになり
ます。また日影規制や北側(高度)斜線のように敷地が道路に接していること
により緩和される法規もあります。

まず基本的に敷地に道路が2メートル以上接していなければ建物を建てること
は出来ません。他人の家の庭を通って自分の家に行く訳にはいかないので理屈
はご理解いただけると思いますが、奥行きのある敷地で両親の家の庭に後から
子供の家を建てる場合などよく問題になります。建築基準法には一敷地一建物
の原則がありますので敷地を分割しなければ家を建てることは出来ません。
(一団地認定等の例外措置はあります。)手前の子供の家が道路に接する場合
その奥にある両親の家は敷地と道路を結ぶために2メートル以上の通路を設け
るように敷地分割をしなければならなくなります。

また建築基準法上の道路幅員は基本的に4メートル以上と定められており、4メ
ートルに満たない道路はみなし道路(42条2項道路)となり、将来その道路に
接する敷地に建物を建てるときに敷地の一部を道路とし幅員を広げる必要が出
てきます。例えば幅員3メートルの道路であれば道路両側へ中心振り分けにな
るので50cm敷地境界が移動することになります。注意が必要なのは特定行政庁
で認められた道路はまれに最低幅員6メートルとしている場合があります。ま
た片側が崖地や川などの場合、一方的に自分の敷地側に道路を広げなくてはな
らなくなります。この辺りの役所へのヒヤリングは大変重要になります。

容積率は各用途地域で決まった数値が定められておりますが、それとは別に住
居系の用途地域では前面道路幅員掛ける0.4以下、それ以外の用途地域では前
面道路幅員掛ける0.6以下という基準が定められています。容積率200%の第一
種低層住居専用地域であっても前面道路幅員が4メートルであれば、4掛ける
0.4=1.6(160%)の容積しか認められなくなります。

道路斜線制限とは、建物の部分から前面道路の反対側の境界線までの距離に
1.25または1.5を掛けた数値の高さをこえてその建物の部分を建築してはなら
ないという法律で、言葉にするととても解りにくいのですが、断面的に規制範
囲が勾配1.25または1.5の斜線になるので道路斜線といわれています。マンシ
ョンなどで道路に面する部分が上階に行くに従ってセットバックしているのは
道路斜線制限(または日影規制)の影響です。同様な規制で隣地斜線と北側
(高度)斜線がありますが、北側(高度)斜線では北側に道路がある場合、計
画敷地の反対側の道路境界から制限が発生しますから距離が長くなり緩和にな
ります。

ここでは全ての規制について取り上げることは出来ませんが、道路と敷地の関
係をしっかり調べることはとても重要です。そしてその土地にどのような家を
建てたいか、将来どのような形で土地を使用したいかなど想定の上で道路と敷
地の関係を考える必要があります。


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    §48 住宅の外観

住宅の外観はその機能、構造から生ずることが基本です。それは昔から変わら
ないことであり、雨水を効率よく処理する屋根、光や風を室内に取り込む窓な
どが重要な意匠的要素です。また柱や梁といった空間を構成する部位も重要な
要素となります。建築に本来あるものを構築して建築の外観を創り上げる手法
は古今東西変わらぬ基本だと思います。

上記の考えに倣い単純に形を整えると、どれも同じような外観になってしまい
個性が埋没してしまうといった危険性があるのは事実だと思います。特に高度
成長期に建てられた住宅にはその傾向がうかがわれます。結局、建築個々の部
材が大量生産され、しかも工法もシステム化されて管理されていれば当然の結
果かも知れません。安易に窓の形や大きさに変化を持たせても建物全体の雰囲
気を変えることは難しく、派手な装飾をしても直ぐに陳腐化して安っぽくなっ
てしまい真の個性は生まれません。

どうすれば個性的で、長い年月を経ても輝きを失わない外観を創ることが出来
るのでしょうか。一つの方法はプラン(平面)を徹底的に練ることがあげられ
ます。平面図が出来た後、それに合わせて外観を整えるのではなく、外観が満
足できなければ平面図に戻って組み立て直すことを繰り返します。その作業を
続けているうちに人が持っている美意識が働き、その人が持ちうる必然的平面
と必然的外観がシンクロして合理的な外観が生まれるはずです。窓ひとつひと
つ、軒先の出、屋根の勾配など全てに明確な意味を持っていれば美しく個性的
な外観が生まれるはずです。

またテーマを決めてそれを追求することも大切だと思います。例えば、一塊の
結晶体のような住宅の外観を創りだそうと思えば、サッシや屋根の軒先のディ
テールを考え抜かなければいけません。水切りの線が目だってしまいますので
それをなるべく目立たせないようにして、尚且つ機能的に問題が無いように納
める必要があります。また先に述べたように開口部の位置や配列に意味を持た
せたプランニングを熟慮しなければならなくなるでしょう。

住宅の外観は一過性のファッションではありませんので、単純にセンスだけで
は対応できません。結局、美意識に手を掛け時間を掛け成熟させなければ人の
心は動かないし、長い年月生命感を維持することは出来ないと思います。



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    §49 窓の選択

住宅の設計を行う上で、窓の選択はとても大切な作業です。適切な位置に適切
な窓を選択しないと実際に生活を始めてから不都合が見つかり、入居者が不自
由な思いをすることになります。しかしこの場所にはこの窓という決定的な決
まりは無く、いろいろな要因の中で優先順位を決めて施主と設計者が打合せを
しながら決めていくものだと思います。

通常リビングルームには大きな掃きだし窓(床まで開口となっている窓)を設
けます。大きな窓があり、日当たりの良い寛ぎのスペースというイメージは誰
でも持つと思われます。掃きだし窓の巾により、引き違いとするか中央はめ殺
しの両側引き戸とするか、あるいは程々の巾にとどめ2つの窓とするか、この
辺りは部屋の大きさや家具の配置で決まってきます。気をつけなければならな
いのは防犯に対する配慮です。大きな窓は面格子を付けることが難しいので、
雨戸をつける、センサーを付ける、複数の鍵を付ける等対策を考える必要が有
ります。

窓を選択するときのポイントは、防犯、清掃、網戸の3つがあげられます。勿
論、生活環境や意匠性も重視するのは当然ですが、この3ポイントを抑えてお
かなければ日常生活に支障が生じます。例えば玄関廻りに付く窓ですが、意匠
上真ん中に線が入る引き違いは避けたいと思います。さらに通風を考えればは
め殺しも避けます。そうすると一般的には竪滑り出し窓か片開き窓を用います
が、外部に突き出るために面格子が付けられません。また内倒し窓や内開き窓
にすると内側に網戸を付けることが出来なくなります。結局、清掃は少し大変
だけどガラスルーバー窓に折りたたみ式網戸(プリーツ網戸)を付けることに
します。このように窓を選択する要素は沢山あり、何を重視するかによった答
えは違ってきます。

住宅に良く使われる窓は、引き違い、滑り出し、竪滑り出し、はめ殺し、片開
き、ガラスルーバー窓等です。竪滑り出し窓は窓を開けると吊元の軸が開口方
向に動き手が入るようになり、部屋の内側からガラスの両面が清掃できます。
2階以上でバルコニー等に面しない場所に良く使われます。その他、それぞれ
特徴がありますので適材適所に選択しなければなりません。また断熱性を重視
した複層ガラスを使用した窓、遮音性を重視した二重サッシ等も必要に応じて
選択することが求められます。特に複層ガラスは環境重視の点から主流になり
つつあります。


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      §50 天井の意匠

住宅の天井は内部空間を構成する重要な要素です。どのような空間を創り出そ
うとしているか具体的なイメージがなければなかなか決められない部分でもあ
ります。天井は部屋のどこに居ても目に入り、空間の雰囲気を決定付けてしま
う力を持っています。

分譲マンションの場合、強い個性を提示すると好き嫌いが生じ販売に大きな影
響を与えてしまうことからビニールクロスを張り上げて済ましてしまう傾向が
あります。また通常和室の天井はプリント合板(または突板合板)張りで済ま
されることが多いと思います。天井の意匠は結構お金がかかるので、余程のこ
とがない限り手の込んだ天井を創ることはしません。この傾向を打破するには
室内空間全体にグレードを上げデイテールの積み重ねによる空間創りをして、
それが販売材料になるレベルまで仕様を上げなければならないと思います。購
入者が決定後、内装を設計する方法を採れば可能かも知れません。

戸建住宅の場合、よく行われるのが吊天井を用いず根太等構造材を露出させる
根太天井です。力の流れを感じることが出来、ストレートでモダンな印象を生
み出すので洋風、和風どちらにも相性が良い天井です。天井高も取れるのでと
てもよく使われるようになりました。気をつけなければならないのは構造材に
化粧材を用いなければならないので単純に吊天井が無くなった分工事費が安く
なるわけでは有りません。また本来天井の中に隠れる配線等を旨く見えないよ
うに納めなくてはなりません。2階の音が1階に伝わりやすいということもあり
ますので熟慮が必要です。

和室に良く用いられるのが目透し天井と竿縁天井です。目透し天井は仕上ボー
ドを突き付けずに目地を設けて納める方法でスッキリしていてモダンなイメー
ジがあります。目地のつくり方によって仕様が異なり、意匠的にも雰囲気がガ
ラリと変わります。竿縁天井は天井の下地材(野縁)に直接止める他の天井仕
上げとは異なり竿縁と呼ばれる細い材を吊り、それに板材を乗せる構成になっ
ています。竿縁の形状、色、材質、大きさ、間隔を変えることにより個性豊か
な天井を生み出します。

洋室には主に打上天井といって野縁を組んで吊下げこれに釘でボードや縁甲板
などを打ちつけた天井が使われます。ボードにペンキを塗ったり、クロスを張
ったり、岩綿吸音板を貼り付けて仕上ます。フローリングのような縁甲板張り
天井も良く見かけます。木目が生き材料の重厚さを感じる天井です。

天井は室内の中では仕上げる方法が多様な部分です。モダンリビングの普及に
より無個性化が進んでしまっていますが、一括りに決めつけづにいろいろ検討
する必要があると思います。試行錯誤の結果、無垢でプレーンな仕上げになる
のであれば構わないのですが、長い歴史と技術の蓄積がある天井仕上げを表現
手段として考慮しないとすればもったいないことだと思います。


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     §51 天空率の利用

天空率という言葉をご存知でしょうか。戸建住宅では比較的使われることが少
ないとおもいますが、マンションの設計では大変よく使われています。道路斜
線、隣地斜線等、斜線制限の緩和規定の評価基準です。道路斜線を例に説明さ
せていただきますと、計画敷地の前面道路の計画敷地と反対側の境界線から
360度天空を見上げたとき見えてくる計画建物以外の水平投影面積と想定半球
(全体)の水平投影面積の比(全体-計画建物/全体)です。とても解りにくい
かも知れませんが平たく言うと計画建物に隠れない空の比率です。数値が大き
い方が建物に影響を受けない空が大きいことになります。

平成15年の建築基準法の改正により条件が整えば斜線制限が除外となる法律が
出来ました。斜線制限ギリギリの建築物を想定してこれを適合建築物とし、適
用範囲内において適合建築物の天空率よりも計画建築物の天空率の方が大きけ
れば斜線制限が適用除外となります。斜線制限は境界線に面する部分一律に規
制がかかるので一部突出して高い部分があると法規違反となっていました。こ
れを境界線に面する部分全体で考えることが出来るようにしたのが天空率によ
る斜線制限緩和です。一部高い部分があっても他に低い部分があれば充当でき
るわけです。

天空率による斜線緩和は高層の建物ばかりでなく、低層住宅の設計にも恩恵を
与えます。斜線により屋根の形状を変えざるを得なかったり、2階バルコニー
に庇が付けられなかったり、セットバックしなければ3階建が造れなかったり
した場合に天空率による緩和で解決できることがあります。設計者は天空率に
より設計の自由度を手に入れたといえるでしょう。

建築主の立場からすれば、斜線に掛かることを理由に形状を決定する設計者が
いたとすれば天空率による検討を求めることが出来ます。ただし、天空率を利
用するにはパソコンを使わなければ不可能ですし沢山の図面を書かなければい
けないので結構手間がかかります。良好な関係を保つためにも計画が流動的な
時点に於いては天空率を使った場合どうなりそうか意見を聞く程度にしていた
だいて、具体的になってからしっかり検討してもらう方が良いと思います。


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      §52 塀について

戸建住宅を建てるときに、敷地の周囲を塀で囲む場合と囲まない場合がありま
す。敷地の条件によって決められることもありますし、店舗併用住宅であった
りカーポートなどを設けた場合など機能的な理由によることもあります。また
、塀を設けるにしても四周高さ2メートル程度のブロック塀を設けることもあ
るしネットフェンスを設けることもあります。いろいろな条件や建築主、設計
者の考え方で違いが出て来る部分だとは思いますが、建物以外の部分でもある
為余り考慮せずに計画してしまっていることも多いのではないでしょうか。

塀の計画は住宅の設計にとって大変重要な意味を持ちます。特に都市型狭小住
宅では重要になります。敷地が限られているので、塀を設ける範囲や種類で住
宅の計画に大きな影響を及ぼします。塀を計画する場合、意識するのはセキュ
リティ、プライバシー保護、採光、通風、必要面積などだと思います。これら
全てを満足させるにはとても広い敷地が必要になりますから、建物の平面計画
と照らし合わせて調整し決定していくことが多いのではないでしょうか。項目
を一つ一つ取り上げて考察すると尽きなくなりますので、代表的な例を挙げて
考えてみたいと思います。

まず、塀を設けない場合を考えてみます。設けないなど考えられないという方
も多いと思いますが、設けないときに生じるリスクを解決できれば問題がない
という考え方も出来ます。塀が無いときに問題になるのはセキュリティーとプ
ライバシー保護だと思います。これは2階にリビングダイニングを計画し、1階
の開口部に面格子やセンサーを設け型ガラスを用いることによってある程度解
決できます。塀が無ければ建物の周囲が丸見えになるのでかえって進入しにく
くなるという利点もあります。通風、採光については塀が無くなり良好になり
ます。塀を設けないことで基本計画を進めて行き、隣地との関係から必要にな
った部分だけ塀を設けるという進め方もあります。敷地面積が厳しく、庭がほ
とんど無い場合に考えられる方法だと思います。

建物の外観に合せて道路側に植栽帯を設け、その内側に塀を造るといった塀を
重視した考え方もあると思います。どちらかというと敷地に多少余裕があれば
多くの方が試みる方法だと思います。また、このような塀を造る場合セキュリ
ティーとプライバシーを重視する傾向が強く重厚な塀を用いることが多いので
はないでしょうか。注意する点はコンクリートブロックを用いる場合塀と建物
は1メートル程度離す必要があります。建築基準法で長さ3.4メートルごとに高
さの1/5の控え壁を設けなければなりません。鉄筋コンクリートや型枠コンク
リートブロックを使用することも出来ますが、この場合塀自体の重量が重くな
りますので基礎が大きくなります。これらを解決する為に良く使われる方法と
して、アルミ製の目隠しフェンスを用いる方法があります。シンプルで落ち着
いたイメージを保ちながら通風も出来ます。

また、塀に門扉を設けて出入口を造る場合、玄関までのアプローチが重要視さ
れますので、ある程度の奥行きを用意して計画する必要があると思います。も
しそれが不可能であれば玄関廻り部分の塀を無くし、植栽帯を回り込ませると
良い雰囲気が創りやすくなります。

塀は外構工事の要であり、外観や生活環境に大きな影響を与えます。工事費も
結構かかりますので熟慮の上計画していただきたいと思います。


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    §53 スケール感

常にメジャーを持ち歩いている建築設計者は多いと思います。これは自分の気
になった寸法をその場で計り記憶するためです。また日頃自分が使っている寸
法が正しいかどうか実感するために同様の生活体験をしたときにその寸法を確
認することもあると思います。さらに寸法に関する研ぎ澄まされた感覚を養う
ために、目測の技量を高める訓練として寸法を測ることもあります。

建築を職業にしていない方でもある程度のスケール感を磨くことは実生活に役
立ちますし、自分が家を建てようと思ったときは強力な武器になります。具体
的には部屋の大きさにそぐわない電化製品や家具を購入することが避けられ適
切なレイアウトが出来ます。さらに計画の都合で通常より若干せまい計画がさ
れることもあるし、体格の違いによって適切な必要寸法は違ってくるので、ト
イレの奥行きが狭い計画やキッチンの作業スペースが狭い計画を指摘すること
が出来ます。

スケール感を身に着ける方法は常にメジャーを持ち歩き気になった寸法を測る
ことが基本ですが、基準となる寸法を覚えておきそれと比較しながらスケール
感を身に着ける方法が手軽ですし効果的でもあります。例えばいつも使ってい
るダイニングテーブルから壁までの距離を覚えておきそれが適切か窮屈か余裕
があるか意識しておけば応用が利きます。実体験している自分の家のいろいろ
な寸法を覚えて置き、その寸法は理想と比べてどうなのか意識することでスケ
ール感は身につきます。また細かいところでは窓の額縁の厚さ(見付寸法)や
巾木の高さも覚えておくと雑誌などで写真を見たときにその違いが部屋全体の
雰囲気を変えていること気づき、自分の好みを明確にすることが出来ると思い
ます。

日頃から寸法を意識してスケール感を身に着けることによりプロポーション感
覚も身につけることが出来ます。建物の外観を見て壁面に対して窓の大きさが
アンバランスであったり窓の並びが不均一であったりした場合、気になりよう
になります。計画上仕方が無いことも多いと思いますが、簡単に修正すること
が出来ることもありますのでこだわりを持つのは良いことだと思います。その
他庇の出や柱型梁型の大きさ、隣地との離れなども心地よい寸法を感じること
が出来るようになって来ます。

寸法の感覚は人類普遍の感覚といってよく黄金比などの研究は昔から行われて
きました。歴史的建造物等を見る際もスケール感を身に着けるほど味わい深く
感じられるようになると思います。

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      §54 地震力

自分の家は地震にどの位丈夫なのだろうかと心配する人も多いと思います。こ
こでは建物の設計において地震力を定量化する式を紹介させていただきます。
実際の構造計算を理解するには専門的な知識が必要になりますが、何が大きく
なると地震力が大きくなるか、また地震力をなるべく小さくするにはどうした
らよいかを感じ取っていただきたいと思っています。地震力は地震が発生した
ときに働く力です。地震に対する耐力と考えると全く逆になってしまいますの
で注意してください。また、地震力はX方向、Y方向に同じ力が働くことになり
ます。構造設計を行うときはそれぞれ別々に耐力を設定します。

まず地震力は水平動と垂直動がありますが建物に大きく影響するのは水平力で
す。この水平方向の力を地震層せん断力といいます。地震層せん断力は階によ
って値が違ってきます。ここではi階の地震せん断力をQiと表します。(・は掛
けるを表します。)

地震せん断力Qi=Ci・Wi

ここで
Qi:i階に作用する地震層せん断力(i階の中心のレベルに働く)
Ci:i階の地震層せん断係数
Wi:i階より上の建築物の重量(i階の中心のレベルより上部の合計の重さ)

これが地震力に対する最も基本的な式です。1階から最上階まで全ての各階で
地震層せん断力以上の耐力をそれぞれ用意する必要があります。どこか1層だ
けでも弱い階があるとその建物は壊れてしまいます。話が専門的になってきま
したが、まずこの式から読み取れるのは建物が軽いほど地震力は小さくなると
いうことです。それから対象階より上の階の重量は全てその階にかかってきま
すので下の階ほど地震力が強く、上の階ほど地震力は弱くなります。(中高層
建物ではCiが上部階で大きくなることがあるので注意が必要。)

さて少し難しくなりますが上の式のCi(地震層せん断係数)を説明します。
式に表すと
地震層せん断係数Ci=Z・Rt・Ai・C0(シィゼロ)

全て掛け算なので、個々の係数それぞれの数値が大きいほど地震力は大きくな
り小さいほど地震力は小さくなりますます。

Z:地震地域係数。過去の地震に関する記録から係数を決めています。当然地
震が起こりやすい地域が大きい数値になります。例として関東地方は1.0、東
北地方の日本海側0.9、九州北西部0.8、沖縄0.7等です。また、静岡県は県の
構造設計指針によって1.2となっています。

Rt:建物の一次固有周期と地盤の振動特性から決まる数値です。一次固有周
期は一般に高いほど、柔らかいほど大きな数値になります。一次固有周期が
小さい場合Rtは地盤に関係なく1.0となります。低層の建物は一次固有周期が
小さくほとんどの場合Rtは1.0となります。一次固有周期がある数値以上にな
ると地盤が頑丈なほど小さな数値(1.0以下)になります。(実際には頑丈な
順に第1種地盤、第2種地盤、第3種地盤の3段階に別れていてそれぞれ数式が
用意されています。)

Ai:地震層せん断係数の高さ方向の分布係数。難しい名称となっていますが、
上階にいくほど大きな数値になり、一次固有周期が長いほど大きくなります。
つまり大きく振れる場所は地震力は大きくなります。高層になるほど一次固有
周期の影響を大きく受けます。

C0(シィゼロ):標準せん断力係数。地震の規模と地震力を使って何を求める
かによって替わります。一般に住宅等低層の建物で使用される数値はC0=0.2。
木造の著しく軟弱な地盤上では0.3以上と定められています。基準上ではあり
ますが地盤が悪いと1.5倍の地震力が働くことになります。

上記から建物が軽くて、過去に地震が余り発生していない地域で、地盤が頑丈
で、低層であるとき地震力は小さくなります。

実際の耐震診断は壁の配置や建物の劣化等も考慮して判断しなければなりませ
ん。最後に国土交通省住宅局が監修した一般向けの耐震診断ガイド「誰にでも
できるわが家の耐震診断」をご紹介します。
http://www.kenchiku-bosai.or.jp/seismic/file/wagayare.pdf


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      §55 構造の選択

日本の戸建住宅の構造は主に木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造が有りますが
、木造住宅が大多数を占めています。何か特別な理由が無い限りは木造を選択
するといっても過言では無いと思います。木造は安価(鉄骨造では木造の3割
から4割増し、鉄筋コンクリート造では5割増しといわれています。)で加工性
がよく増改築が容易という利点があります。何よりも古代から木を用いた住い
づくりは引き継がれており、その伝統は日本人の心の中に深く刻み込まれてい
ます。今回はなぜそれでも敢えて鉄骨造、鉄筋コンクリート造を用いて家を建
てるのか理由を考えながら構造選択のポイントを探ってみたいと思います。

鉄骨は木に比べて強度があり、節目なども無いため品質も高く安定した材料で
す。木造では出来なかった室内に柱が無い大きな空間を創ることが可能で、1
階に大きな駐車場がある3階建て住宅を建てることも可能です。また、木造で
はバランスよく壁を配置して耐力を生み出しますが、鉄骨造は柱梁からなるラ
ーメン構造ですから壁をつくらなくても構造が成り立ちます。ですから間口が
極端に狭いうなぎの寝床のような敷地では、間口方向に壁を造らなくでも構造
が成り立つ鉄骨造を採用することが多くなります。

鉄骨造だからこそ出来る意匠があります。奥深い庇や曲面の屋根、細い柱、ト
ラスを組んだ梁、H鋼のライン(フランジの小口)などデザインに利用できる
要素は豊富です。仕上材で構造体を包み込み木構造と変わらない外見にするこ
とは可能ですが、多くの場合積極的に鉄骨独自の意匠を表現しています。デザ
インのために鉄骨造とすることも少なくありません。

鉄筋コンクリート造の利点は耐震性、気密性、遮音性、防火性、耐久性、形態
の自在性などが上げられます。どれも建物の基本性能でありそれなりの価値を
入居者に与えるものだと思います。耐震性に関しては低層戸建住宅を鉄筋コン
クリートで造った場合、相当の耐力が期待できます。ただし建物の重量が大き
くなるので地盤が悪い場合やロングスパンの計画をした場合など問題が生じる
可能性があります。耐久性に関しては50年から100年の寿命が期待できます。
寿命の長短に関してはコンクリートの配合計画に大きく左右されます。シロア
リなどの問題も生じないので安心して長い間使用できることを考えると大きな
利点と言えます。柱、梁などの構造材に関しては鉄骨造も100年程度の耐久性は
ありますが、壁、屋根などの部材は一般に取替が必要になります。鉄筋コンク
リート造でも外壁の仕上材、防水材などのメンテナンスは必要になります。

鉄筋コンクリートは型枠にコンクリートを流し込んでつくるので形態の自在性
があり、自由な形状を生み出すことが出来ます。曲面の壁や細かく段がついた
軒裏など問題なく造ることが出来ます。また、バルコニーや庇など建物本体か
ら突き出た部分を同時にコンクリートを流し込むことによって一体的に造るこ
とが出来ます。木造や鉄骨造で同じようなものを造くろうとすると、雨仕舞が
難しかったり施工に手間がかかることがあります。

鉄骨造や、鉄筋コンクリート造が選択される一般的な理由は耐火性能が優れて
いるからだと思います。他の性能は仕様を高くしたりすれば木造でも対応でき
ることが多いと思いますが、同等の耐火性能を得ることは不可能です。法規的
にも防火地域に指定されている地域では100平米を超える木造住宅(100平米以
下でも準耐火構造にする必要有)を建てることは出来ません。

それぞれの構造に利点があり、欠点もあります。また性能項目によっては木造
であっても仕様を上げることによって同じような性能を得ることが出来ます。
戸建住宅は構造の選択によって出来上がる家は大きく変わりますので、知識を
蓄えいろいろ思い描くことは楽しいことだと思います。


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